野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

「たくさんの求婚者のなかで、少将(しょうしょう)様が一番人柄(ひとがら)がよさそうだ。落ち着いていて品がある。(みや)様の姫君(ひめぎみ)のお相手としては不満だけれど、現実的に考えれば、これ以上の身分の人がこの家の娘に興味を持つことはないだろう」
少将様からの手紙が届くと、母親はときどき姫君にお返事を書かせている。

継父(ままちち)には詳しくも知らせず、そのまま母親ひとりで姫君の結婚を決めてしまった。
<夫は姫の婿(むこ)の世話などしないだろうが、私は命をかけて()くそう。姫の美しさを見れば、きっと婿君(むこぎみ)も姫を大切にしてくださるはずだ>
少将様と相談して結婚の日取りも決め、新婚夫婦のための家具を準備していく。

同じような遊び道具がふたつ仕上がってくれば、細工(さいく)の美しい方を姫君のために隠しておく。
(おと)った方を、
「これはすばらしい出来(でき)です」
と言えば、継父である元常陸(ひたち)(かみ)はよく分からないまま、いそいそと自分の娘の部屋に持っていくの。

(かみ)の娘はそういう家具や道具に囲まれて、立派な先生から楽器を習っている。
一曲弾けるようになるたびに、(かみ)は先生を(おが)んでよろこぶ。
そして、先生が()もれるほどのお礼を渡して大騒ぎするの。
しっとりとした夕暮れ時に、娘が派手な曲を先生と合奏すると、守は涙を流して感動する。

多少教養があって、都の上質なものを知っている母親は、夫の親馬鹿ぶりを見苦しいと思う。
一緒になって娘をほめないので、
「自分の連れ子の世話ばかりに熱心になって。この娘だって自分の子だというのに、父親が私だから見下しているのだ」
と守は(うら)んでいる。