野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

(かみ)夫人(ふじん)二条(にじょう)(いん)を出ようとしたときには、あたりが少し明るくなっていた。
そこへちょうど匂宮(におうのみや)様がお帰りになったの。
中宮様のお見舞いに行かれた(みや)様だけれど、若君(わかぎみ)に会いたくて、こっそりと内裏(だいり)から退出なさったみたい。
いつもとは違う質素(しっそ)な乗り物に乗っていらっしゃる。

守夫人の乗り物にお気づきになって、
「誰の車だ。明け方に急いで出ていくなんて、まるで恋人の家から帰るようではないか」
と宮様はあやしまれる。
(とも)に尋ねさせなさると、
常陸(ひたち)殿(どの)がお帰りになります」
と向こうのお供が堂々と言った。

宮様の若いお供は思わず笑う。
「地方長官に『殿(との)』をつけるのか」
と言うのが聞こえて、乗り物のなかの守夫人は恥ずかしく悲しくなった。
<こんなふうに馬鹿(ばか)にされる身分なのだ。姫の幸せのために、まず母親である私がそれなりの身分でありたかった。まして姫が今の私と同じ身分に落ちるなんて、想像するだけでもとんでもない>

匂宮様は中君(なかのきみ)のお部屋に入ってお尋ねになる。
「常陸殿という男がここに通っているのですか。私が帰ってきたときに、乗り物が訳あり顔で出ていったけれど」
疑っていらっしゃるご様子なので、中君は困ったことだとお思いになる。
「男性ではありませんよ。私の女房(にょうぼう)の、若いころの友人だそうです。いちいち宮様が気になさったら(みょう)(うわさ)が立ちましょう。いつもそんなことばかりおっしゃって、私をお疑いになるのですから」
ふくれてあちらを向かれたのがおかわいらしい。