野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

姫君(ひめぎみ)は、姿も人柄(ひとがら)(にく)めないかわいらしさがある。
人見知りしすぎることもない。
おっとりしているけれど、子どもっぽいわけではないの。
その証拠(しょうこ)に、きちんと周囲に気配りをして、中君(なかのきみ)女房(にょうぼう)たちに顔を見られないようにしている。
<話し方も不思議なほど姉君(あねぎみ)に似ている。姉君の身代わりが欲しいとおっしゃっていた(かおる)(きみ)にお見せしたい>
中君がそう思っていらっしゃったところへ、ちょうど薫の君がお越しになった。

中君は物越しにお会いになる。
(かみ)夫人(ふじん)と姫君は女房たちのいるところへ隠れた。
「ここからお姿を拝見させていただきましょう。とてつもなくお美しい方だと私どもの女房が申しておりましたけれど、匂宮(におうのみや)様ほどではいらっしゃらないでしょうね」
守夫人が中君の女房に話しかけると、
「どうかしら、それはちょっと決められません」
と誰もが言う。

「まさかそんな。あの(みや)様に勝てる方なんて」
守夫人が笑ったとき、
「今、乗り物からお降りになったようです」
と聞こえて、あたりがざわついた。
騒々(そうぞう)しいほどのお(とも)の声は聞こえるけれど、薫の君のお姿はなかなか見えない。
やっと入っていらっしゃったのを拝見して、母親は驚いた。

<なんと優美(ゆうび)な>
分かりやすくご立派な感じではないけれど、上品でお優しい雰囲気が格別なの。
守夫人は思わず自分の前髪を整える。
そのくらいにこちらが気恥ずかしくなってしまうような薫の君を、
<これが最高の男性だ>
と守夫人は思う。

薫の君は内裏(だいり)からお帰りになる途中で、二条(にじょう)(いん)に立ち寄られたみたい。
「昨夜、中宮(ちゅうぐう)様のお具合が悪いとうかがって参内(さんだい)しましたら、お子である宮様たちがどなたも付き添っておられなかったのです。お気の毒に思って、今まで私が代わりにお付きしておりました。匂宮様は、今朝遅くなってからやっとお越しになりましたね。あなた様が甘えて引きとめなさったのでしょうか」

ご冗談をおっしゃる薫の君に、
「まぁ、お優しいこと」
とだけ中君はお返事なさる。
匂宮様が今夜は内裏にお泊まりになるということで、薫の君はいそいそと二条の院へお越しになったのね。
中君とゆっくりお話ししたいというお心なのでしょう。