野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

匂宮(におうのみや)様がご出発なさると、(かみ)夫人(ふじん)姫君(ひめぎみ)を連れて中君(なかのきみ)のお部屋に上がった。
(のぞ)()した(みや)様のお美しさを言葉を()くしてほめそやすので、
田舎(いなか)っぽい人だこと>
と中君は苦笑いなさる。

(はち)(みや)様のご正妻(せいさい)が、生まれたばかりのあなた様を(のこ)してお亡くなりになったときには、この小さなご姉妹はどうなってしまわれるのだろうかと誰もかれも(なげ)いたものです。恐れ多くも八の宮様まで、ふつうの父親と同じように混乱なさいました。それでもあなた様はご運の強い方で、宇治(うじ)という田舎(いなか)でもご無事に成人なさったのですね。あとは大君(おおいぎみ)さえお元気でいてくださっていたらと残念でございますけれど」
守夫人は泣きながら申し上げた。

中君も泣いておっしゃる。
「本当に姉君(あねぎみ)のことは悲しく思います。世の中のたいていのつらいことは、こうして生きながらえているとそれなりに(なぐさ)められるものだけれど、姉君のことはそうはいかない。両親と死に別れた不幸も、とくに母君(ははぎみ)はお顔も知らないから、世間によくある不幸だと納得できなくもないのだけれど、姉君の場合はそれもできない。やはり姉君を亡くした悲しみは消えないでしょう。

姉君の恋人だった(かおる)(きみ)も、いまだにお悲しみから抜け出せずにいらっしゃるらしいのです。(ごん)大納言(だいなごん)へのご出世も、(みかど)の姫君とのご結婚も、あまりうれしくはお思いになれないようで。それだけご愛情が深かったのだと思うと、よけいにお亡くなりになったことが残念に思われます」

守夫人は、出世や内親王(ないしんのう)様との結婚がうれしくないというのが信じられない。
「薫の君は少し思い上がっておられるのではありませんか。帝が異常なほどかわいがって大切にしていらっしゃるとか。それでご出世もご降嫁(こうか)もたいしたことがないように思われるのでしょう。もし大君が生きておいでだったら、このご降嫁はお断りになったかもしれませんね」