野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

翌日、匂宮(におうのみや)様は日が高くなってからお起きになった。
明石(あかし)中宮(ちゅうぐう)様のお加減(かげん)がまたよくないらしい。内裏(だいり)へお見舞いに上がらなければ」
とおっしゃって、お着替えなさる。
(かみ)夫人(ふじん)がこっそりと(のぞ)くと、正装(せいそう)姿の(みや)様は最高にお美しい。
()(だか)魅力(みりょく)を放ちながら、まとわりつく若君(わかぎみ)の相手をしておあげになる。
軽いお食事を召し上がってから内裏へご出発なさるみたい。

今朝から参上した貴族たちのなかに、()綺麗(ぎれい)だけれどぱっとしない顔立ちの男がいる。
ここではまったく目立たないその男は、なんと少将(しょうしょう)様だったの。
中君(なかのきみ)女房(にょうぼう)たちが気づいて、ひそひそと話しはじめる。
「あれが元常陸(ひたち)(かみ)婿(むこ)になったという少将様よ。今こちらに(かみ)の娘が来ているでしょう。本当はあの娘と結婚するはずだったのに、守の実子(じっし)ではないと知った途端(とたん)、まだ幼い(いもうと)(むすめ)に乗りかえたらしいわ。守に経済的に世話されたいだけというのが見え見えね」
「そんなことよく知っているわね」
「こちらではまだ(うわさ)になっていないけれど、守の屋敷の女房から聞いたの」

その守の妻が聞いているとも知らず、女房たちは噂話をする。
姫君(ひめぎみ)破談(はだん)が女房たちの噂になっていることを知って、守夫人は胸がつぶれそうになる。
<あの程度を立派だなどと思っていたことが(くや)しい。まったくたいした男ではないのに>
ますます少将様を軽蔑(けいべつ)する。

若君がはいはいして、宮様を追っていかれた。
宮様はそれにお気づきになると、もう一度戻ってきて若君におっしゃる。
「中宮様のお具合がよければすぐに帰ってきますからね。おつらそうなら、お父様は今夜は内裏にお泊まりだ。今は一晩あなたに会えないだけで胸が苦しいけれど」
しばらく若君をあやしてご出発なさるお姿が、何度拝見しても()()きないほどすばらしい。
(にお)い立つようにお美しくて、いらっしゃらなくなると急にお部屋から(はな)がなくなったような気がする。