野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

匂宮(におうのみや)様が二条(にじょう)(いん)へお越しになった。
(かみ)夫人(ふじん)は自分の部屋から出ていって、いそいそと物陰(ものかげ)から(のぞ)く。
桜の枝のような美しい宮様でいらっしゃる。

(にく)たらしいところもあるけれど、夫として頼りにしている元常陸(ひたち)(かみ)は、貴族とはいえ地方長官の身分。
匂宮様のおそばには、それより身分の高い貴族がずらりと(ひか)えている。
(かみ)とこの貴族たちの間には大きな身分の差があって、どの人も見るからに立派なの。
そういう人たちがかしこまって宮様にお仕えしている。

そこへ、内裏(だいり)からの使者(ししゃ)として守の長男がやって来た。
この長男は守の先妻(せんさい)(わす)形見(がたみ)よ。
やはり立派な貴族たちとは身分が違って、宮様には近づくこともできないでいる。

守夫人はため息をついた。
<なんというすばらしい宮様か。この方の妻でいらっしゃる中君(なかのきみ)はお幸せだ。これまでは、『いくらご身分の高い夫君(おっとぎみ)でも、他にも妻がいれば中君はおつらいだろう』などと勝手にご同情していたが、(あさ)はかな考えだった。このお姿を一目(ひとめ)見れば、七夕(たなばた)のように一年に一度しか会えなかったとしても、この方のご愛情がほしいと思ってしまうだろう>

宮様は若君(わかぎみ)()いてかわいがっていらっしゃる。
中君は背の低いついたての向こうにおられたけれど、そのついたてを押しやって、宮様が何かささやかれた。
お美しいお似合いのご夫婦よ。
<亡き(はち)(みや)様は貴族社会から追放されて(さみ)しくお暮らしだった。同じ親王(しんのう)様といっても、こちらはいかにもお幸せそうでいらっしゃる>
超上流の男性を()()たりにして、守夫人の心は()らぐ。