野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

二条(にじょう)(いん)を選んだのは、元常陸(ひたち)(かみ)に見せつけるためでもある。
<あの人はいつも、姫にろくな親戚がいないと言って馬鹿(ばか)にしている。とんでもないことだ。恐れ多くも匂宮(におうのみや)様の奥様が、姫のために親身(しんみ)になってくださる>
亡き(はち)(みや)様が実子(じっし)とお認めにならなかった以上、本当なら親戚付き合いできる関係ではない。
でも、母親にはそういう意地もあって無理にお願いしたの。

二条の院のなかでも人気(ひとけ)の少ないところに部屋が用意されていた。
(かみ)夫人(ふじん)と姫君は、乳母(めのと)と若い女房(にょうぼう)二、三人だけを連れてそこに入る。
中君(なかのきみ)のところにご挨拶(あいさつ)に上がると、中君はとくに恥ずかしがることもなく、夫人と姫君にお会いになった。
理想的な上流階級の奥様で、若君(わかぎみ)をあやしていらっしゃるご様子はうらやましくなってしまうほど。

<姫がこんなふうに暮らしていたとしてもおかしくなかったのだ。姫も亡き八の宮様のお子なのだし、中君の母君と私は、伯母(おば)(めい)という近い親戚だった。ただ私が女房だったために、妻どころか恋人(あつか)いされることもなく、姫はお子と認めていただけなかった。それが原因で姫は世間から見下されている>
そう思うと、こうして中君にすり寄るような態度を取っていることが嫌になる。

(うらな)いの結果を口実(こうじつ)にして姫君は二条の院に来た。
謹慎(きんしん)中という扱いなので、とくに誰も訪ねてこない。
守夫人もしばらく一緒に滞在するつもりみたい。
せっかくなので匂宮様のお姿も拝見したいと思っている。