野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

部屋に戻ると、姫君(ひめぎみ)はかわいらしく座っている。
<こんなに立派な姫なのだから>
と、母親は自分を(はげ)ます。
姫君の乳母(めのと)を呼んで、たった今知ったことを話した。

「人の心というのは嫌なものだね。少将(しょうしょう)様にはがっかりだ。私は命をかけて婿君(むこぎみ)のお世話をするつもりだったのに。『(かみ)実子(じっし)でなければ結婚する意味がない』と馬鹿(ばか)にして、私に何も言わず、まだ幼い(いもうと)(むすめ)の方に乗りかえなさったのだよ。しかも結婚の日取りはそのままらしい。見るのも聞くのもぞっとする話だが、夫はよろこんで大騒ぎをしている。少将様と夫はお似合いなのだろう。私はもう完全に手を引こう。しばらくの間だけでも、この屋敷を出ていたい」

乳母も腹を立てて言う。
「姫様を馬鹿にするなんて。でも奥様、これはかえって(さいわ)いだったかもしれません。その程度の男に姫様はもったいのうございます。こちらの姫様のお相手は、もっと思いやりも理解もある人でなければ。
(かおる)(きみ)が恋人にしたいと(おお)せなのでございましょう。姫様のご運を信じて、お望みのとおりに差し上げなさってはいかがですか。宇治(うじ)山荘(さんそう)でちらりとお姿を拝見いたしましたが、寿命(じゅみょう)()びるようなお美しさでいらっしゃいましたよ」