最後に「俺、お前が好きだ」と囁くように呟く。
「多分、初めて会った時から好きになっていたんだと思う」
「……っ」
美波は心臓が激しい早鐘を打っているのを感じた。
告白されて嬉しかったからではない。絶望のどん底に叩き落とされたせいだ。
(翔君が好きになったのは声……。私の、声……)
美波の声は姉の茉莉にそっくりだ。美人で、なんでもできて、人気者で両親の信頼も厚いの姉の――。
翔の思い描いている「ナツ」は、「美波」ではなく、「茉莉」に近い女の子なのではないか。
もし目が見えるようになったら、本当の自分を知られてしまう。地味で冴えない、何をしても駄目な自分を――。
それは美波にとっては一番恐ろしいことだった。
翔が再び口を開いた。
「ナツ、お前は俺のことをどう思っている? 俺はお前も俺を好きだって自惚れているんだけど、違うか」
(違わない……)
翔が好きだ。誰よりも大好きだ。本当だったら一生手の届かなかった、キラキラ輝く特別な人――。
「私もよ」と胸に飛び込んでいけたらどれほどいいだろう。だが、それはできないし、してはならなかった。
しかし、せっかく翔が前向きになって手術を決断したのだ。ここで告白を断ってやる気を削いではならない。
美波はもう泣きそうになっていたが、小刻みに震える体を押さえ、必死になって明るい声を作った。この時ほど翔の目が見えないのを、神様に感謝したことはなかった。
「うーん、どうしようかなあ」
「お前……小悪魔系かよ」
「じゃあ、こうしよう」
人差し指を立てて提案する。
「手術が成功して目が見えるようになったら、一緒にあの海に行こうよ。その時私もちゃんと返事をする」
翔がほっとしたように笑う。
「そう来たか。ご褒美ってやつだな」
「駄目?」
「いいや、俄然やる気になった。絶対にオッケーって言わせてやるからな」
「あはは……」
翔は美波が断らないと確信しているのだろう。はしゃいでいるのが手に取るようにわかった。
一方、美波はそれこそ冬の海に叩き落とされたような心境だった。
(……もう翔君のそばにいられない)
これは罰だと思い知る。
(翔君を騙してまでそばにいようとした罰だ)
美波が罪悪感に駆られている一方で、翔は今度はらしくもなくモジモジしだした。
「それで……あのさ」
「どうしたの?」
「手術の前に気合入れてほしいんだ。ったら無事成功する気がする」
、と言われても、どう気合いを入れればいいのかわからない。
「あー、もう、お前ってやっぱり鈍いな」
翔は空を仰いだかと思うと、自分の頬をツンツンと突いた。
「ここにキス、してくんないかな」
「えっ……」
「俺にとってナツってもう一度やる気にさせてくれた勝利の女神みたいなものだから」
――女神。
嘘を吐く女神など聞いたこともない。
なのに、後ろめたさよりも翔に求められたことが嬉しくて、顔がくしゃっと崩れて泣き笑いになるのを感じた。
「私が女神なんて……翔って馬鹿だね」
「男は皆馬鹿だよ」
そっと翔の頬を包み込み、その感触を確かめる。
(最初で……最後)
頬を傾け唇を重ねる。
まさか、唇にするとは思っていなかったのか、翔は驚いてその場で固まっていた。
「お前って……意外と大胆。ほんと、わかんねえ女……」
「ふふっ、これで勝てそう?」
「……」
翔は「百人力だ」とニッと笑った。
「多分、初めて会った時から好きになっていたんだと思う」
「……っ」
美波は心臓が激しい早鐘を打っているのを感じた。
告白されて嬉しかったからではない。絶望のどん底に叩き落とされたせいだ。
(翔君が好きになったのは声……。私の、声……)
美波の声は姉の茉莉にそっくりだ。美人で、なんでもできて、人気者で両親の信頼も厚いの姉の――。
翔の思い描いている「ナツ」は、「美波」ではなく、「茉莉」に近い女の子なのではないか。
もし目が見えるようになったら、本当の自分を知られてしまう。地味で冴えない、何をしても駄目な自分を――。
それは美波にとっては一番恐ろしいことだった。
翔が再び口を開いた。
「ナツ、お前は俺のことをどう思っている? 俺はお前も俺を好きだって自惚れているんだけど、違うか」
(違わない……)
翔が好きだ。誰よりも大好きだ。本当だったら一生手の届かなかった、キラキラ輝く特別な人――。
「私もよ」と胸に飛び込んでいけたらどれほどいいだろう。だが、それはできないし、してはならなかった。
しかし、せっかく翔が前向きになって手術を決断したのだ。ここで告白を断ってやる気を削いではならない。
美波はもう泣きそうになっていたが、小刻みに震える体を押さえ、必死になって明るい声を作った。この時ほど翔の目が見えないのを、神様に感謝したことはなかった。
「うーん、どうしようかなあ」
「お前……小悪魔系かよ」
「じゃあ、こうしよう」
人差し指を立てて提案する。
「手術が成功して目が見えるようになったら、一緒にあの海に行こうよ。その時私もちゃんと返事をする」
翔がほっとしたように笑う。
「そう来たか。ご褒美ってやつだな」
「駄目?」
「いいや、俄然やる気になった。絶対にオッケーって言わせてやるからな」
「あはは……」
翔は美波が断らないと確信しているのだろう。はしゃいでいるのが手に取るようにわかった。
一方、美波はそれこそ冬の海に叩き落とされたような心境だった。
(……もう翔君のそばにいられない)
これは罰だと思い知る。
(翔君を騙してまでそばにいようとした罰だ)
美波が罪悪感に駆られている一方で、翔は今度はらしくもなくモジモジしだした。
「それで……あのさ」
「どうしたの?」
「手術の前に気合入れてほしいんだ。ったら無事成功する気がする」
、と言われても、どう気合いを入れればいいのかわからない。
「あー、もう、お前ってやっぱり鈍いな」
翔は空を仰いだかと思うと、自分の頬をツンツンと突いた。
「ここにキス、してくんないかな」
「えっ……」
「俺にとってナツってもう一度やる気にさせてくれた勝利の女神みたいなものだから」
――女神。
嘘を吐く女神など聞いたこともない。
なのに、後ろめたさよりも翔に求められたことが嬉しくて、顔がくしゃっと崩れて泣き笑いになるのを感じた。
「私が女神なんて……翔って馬鹿だね」
「男は皆馬鹿だよ」
そっと翔の頬を包み込み、その感触を確かめる。
(最初で……最後)
頬を傾け唇を重ねる。
まさか、唇にするとは思っていなかったのか、翔は驚いてその場で固まっていた。
「お前って……意外と大胆。ほんと、わかんねえ女……」
「ふふっ、これで勝てそう?」
「……」
翔は「百人力だ」とニッと笑った。

