想いと共に花と散る

 祖父母の家の庭は、まるで絵に書いたような立派な日本庭園であった。
 二年前に帰省した時は価値など点で理解できなかったが、今であればその豪勢さが理解できる。
 
「すごいなぁ……」

 ザクザクと音を立てながら歩いていると、スリッパ越しに足裏から砂利の感触を感じる。
 庭の中には一本の大きな松の木が植えられていた。その下に歩み寄り見上げると、葉の隙間から橙色の空が見える。
 松の木から視線を逸らして辺りを見渡して、もう一度松の木を見上げた。

「いつからここに植えられてるのかな」

 この松の木は一体どれだけの月日をこの場所で過ごしてきたのであろうか。
 想像もできない長い年月を経ていることくらいは想像に固くない。
 数十年、数百年、人々の成長と時代の移り変わりをこの松の木は見てきたのだろう。
 そこにはどのような人々の想いと歴史が刻まれているのか。今世に語り継がれることのなかった名も無き歴史も、この松の木は知っているのだろうか。

「こっちは、桜の木かな」

 庭の中には、松の木ともう一つ青々とした葉を携えた大きな木がある。
 今の季節は夏であるため花を咲かせることはないが、春になれば美しい桜色に満ちる木。
 祖父母の家に来るのは毎年夏休みとお正月であるため花を咲かせているところは見たことがないが、過去に祖母が花を咲かせた場面を写した写真を見せてくれたことがある。
 それはそれは美しい桜吹雪が舞っていた。

(いつか本物の桜をこの目で見れるかな)

 来年、再来年と帰省する時期を春にしてみるのもいいかもしれない。一度両親に相談してみよう。

「聞き入れてくれるかは、分かんないけど」

 聞き入れてもらえないとしても、もう高校生なのだから一人で見に来たっていいだろう。
 むしろそのほうが心置きなく祖母と一緒に過ごせるかもしれない。
 
「ん、何だろうあれ」

 松の木の前から離れてフラフラと庭を彷徨っていると、ふと家屋とは違う古い建物が目に入った。
 木々と生い茂った草によってその全貌を伺い知ることはできない。
 現在立ち止まっている地点から分かることは、隙間から見える白い壁と瓦屋根であった。

(入ったら怒られそうだけど、気になるし……)

 祖母はともかく祖父にバレてしまえば、こっぴどく叱られてしまうだろう。
 しかし、好奇心はすっかり湧き上がっている。せめて外見だけでも目にしないと気が済まない。

「少しだけ、少しだけだから」

 誰に対してでもない言い訳を唱えながら、草木が生い茂る庭の一角へと歩みを進めた。