さっきまでの恐怖とか、そんなもの吹き飛んでしまって―― 今はただ、ハルくんの怒り具合が心配で仕方ない。
このまま、荻原くんを殴ったりしたらどうしよう。そんなことになったら、きっと取り返しがつかなくなる。
「は、ハルくんっ、もういいから帰ろっ」
「ちあは黙ってて」
だめだ。胸倉をつかんでる腕を引っ張ってもびくともしない。むしろ、段々強くなってる。
「ハルくん、周りに人もいるしさっ…」
ホームルームが終わったクラスの生徒がわらわらと階段から降りてくる。ざわめきが広がって、視線が集まる。
「佐々木、離してくんない?」
「無理。殴らないと気が済まない」
「…それって、千秋ちゃんのためなの?自分がイラつくからでしょ」
「荻原くんっ、やめてよ!」
ハルくんの顔が、ひどく傷ついてるように見えて、すごい嫌だ。怒りと悲しみが混ざったその表情は、私が知っているハルくんじゃない。
――守ってくれているはずなのに、こんな顔をさせてしまっている。胸が痛くて、涙がこぼれそうになる。
「ハルくん…お願い、もうやめて」
震える声で必死に呼びかける。
その瞬間、周囲のざわめきがさらに大きくなり、「やめろよ」「先生呼んでこい」なんて声が飛び交う。



