荻原くんは、通話ボタンをタップしてスマホをスピーカーにした。コール音が、部屋の空気を切り裂くように響き渡る。 映画は再生されたまま、画面の中では賑やかな音が流れているのに、私の耳には遠く感じた。
ハルくんは、多分出ないと思う。
何度もコール音が続いて、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
出ないでほしい。
何回かコール音が続いて、もうそろそろ切れると思ったとき――
『…なに?』
ぶっきらぼうで、不機嫌そうな声が、スマホから響いた。
「…っ、」
ねぇ。なんで、出たの。ダメだよ、ハルくん。出ちゃだめ。
胸の奥が、ぐっと締めつけられる。 聞きたくなかったのに、聞いてしまった。声だけで、涙が溢れそうになる。
「佐々木、今どこにいんの?」
荻原くんの声が、部屋に響く。
一瞬の沈黙。
そして――
『…荻原と、いんの?』
スマホのスピーカーから流れるハルくんの声は、冷たくて、不機嫌そうで。
でも、私にとっては懐かしくて、痛くて、どうしようもなく大切だった。



