【2.26公開】ハルくんの、かくしごと。




「荻原くん、ありがとう。荻原くんがいてくれて、ほんとに良かったよ」



生ぬるい風が私の髪をなびかせる。

髪が口にくっついて、それを取ろうとしたら――私よりも先に荻原くんが手を伸ばした。



「千秋ちゃん。俺と、付き合ってみない?」



……うん? 突拍子もないことを言い出す、変な人。

しかも、タイミングまでも変だ。

私、さっきも泣き叫びながら言ったと思うんだけど。

「好きでもない人と付き合うの、もうやめろって言われる」って。

それなのに、どうして今このタイミングで。


心臓が、変な音を立てる。驚きと、戸惑いと、少しの温度。



「…付き合うとか、そういうの私向いてなくて。恋もしたことないし…」



ピュッて、またあったかい風。

私の髪を荻原くんが顔にかからないように整えてくれる。



「じゃあ、付き合わなくてもいいからさ。恋人らしいことしてみようよ」


「…どうして?」


「そしたら、少しは恋愛が分かるかも知れないじゃん? 大丈夫。俺、絶対傷つかないって言いきれるから」



まっすぐ、私を見る目。

髪を持っていた手が、そのまま頬まですべる。

頬に触れる、私の体温よりも少し熱い手。そこから緊張が広がっていく。

ドクッドクッ。心臓が尋常じゃないくらいうるさい。

視線を逸らしたいのに、逸らせない。

荻原くんの瞳が、まるで逃げ場を塞ぐみたいに私を捉えている。