野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

源氏(げんじ)(きみ)がいらっしゃらない夜、(むらさき)(うえ)はいつも()()かしして女房(にょうぼう)たちに物語をお読ませになる。
<浮気をする男に振りまわされる昔話は多いけれど、どの女も最終的には頼りになる男に出会えている。私はいつまでもふわふわと(ただよ)って、ついにそんな相手に出会えなかった。たしかに(ひと)()(はず)れた幸せな思いもしたけれど、頼りにならない愛情にすがって人並み以上に苦しんだ。死ぬまでこうなのだろうか。(むな)しいことだ>

深夜にやっとお休みなって、明け方前に突然お胸をお押さえになる。
苦しんでいらっしゃるので女房たちは慌てて源氏の君にお知らせしようとする。
「いけません、姫宮(ひめみや)様に失礼ですから」
紫の上は女房を止めると、おひとりで()えて夜明けをお待ちになった。
熱が出て気が遠くなられるけれどまだ源氏の君はお戻りにならない。

夜が明けると明石(あかし)女御(にょうご)様からご伝言が届いた。
「お会いになりたい」という内容だけれど、とても女御様のところへ上がれるようなご体調ではいらっしゃらない。
そうお返事なさると、女御様はあわてて宮様のところにいらっしゃる源氏の君にお知らせなさった。
源氏の君はお胸がつぶれて急いでお戻りになる。

「いったいどうしたのだ、どんなお具合だ」
紫の上のお体にお触れになる。
とても熱い。
<昨日厄年(やくどし)の話をしたばかりだというのに>
源氏の君はぞっとなさる。

果物さえ召し上がらない。
起き上がることもおできにならないまま何日も()った。
病気回復のお祈りをおさせになるけれど効果は出ず、たいそうお苦しみになって、ときどき発作(ほっさ)を起こされる。
自然とよくなっていく気配(けはい)もない。
終わりが見えないご病状(びょうじょう)に、源氏の君はただ不安になっていかれる。

入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様の五十歳の祝賀(しゅくが)(かい)は近づいているけれど、それどころではなくなってしまって延期なさる。
上皇様からもお見舞いのお使者(ししゃ)が来た。