野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

「近ごろの人は(きん)は近寄りがたいと思うらしいね。古めかしいおおげさな言い伝えがある楽器だから、恐れ多く感じるのだろう。もうほとんど弾く人がいないのは残念なことだ。合奏の時は琴の音を基準に他を合わせるものなのだが。私は名人と言われる人たちに習い、そのあとは自分でも(きわ)めようとしたけれど、それを伝授(でんじゅ)する子孫がいないのは悲しい」

大将(たいしょう)様は、
<私に音楽の才能が足りなくて、伝授しようと思っていただけなかったのだ>
と恥ずかしくお思いになる。
明石(あかし)女御(にょうご)様がお生みになった皇子(みこ)様たちのなかに、琴の才能のありそうな方がいらっしゃれば、私の学んだことをすべてお教えしようと思っているのだよ。それまで長生きできるかどうかが問題だがね」
近くで聞いている明石の君が、うれしさのあまり涙ぐんでいる。