野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様の五十歳の祝賀(しゅくが)(かい)は、まず皇子(みこ)であられる(みかど)がお開きになる。
そのあとの二月に源氏(げんじ)(きみ)はご計画なさっている。
音楽や(まい)の練習が六条(ろくじょう)(いん)でにぎやかに行われている一方で、(おんな)(さん)(みや)様の(きん)もなかなかよい具合に仕上がってきた。
源氏の君はおもしろい会を思いつかれる。

(むらさき)(うえ)が『年が明けたら宮様の琴をお聞きしたい』と申しておりましたから、この六条の院の女君(おんなぎみ)たちで音楽会をしてはどうでしょう。名人といわれる貴族たちにも(おと)らない人ばかりですから、あなたにもよい練習になりますよ。
どのような楽器でも、近ごろの若い人たちは表面的な弾き方を覚えるだけで、深い音色を響かせようと努力しません。琴などは習う人さえいなくなっているようです。現在ではあなたほど習得(しゅうとく)した人はほとんどおられないでしょうね」

<まぁ、自分ではよく分からないけれど、源氏の君にほめられるほど上達したのだわ>
姫宮(ひめみや)様はうれしそうにほほえみなさる。
二十一、二歳であられるけれど、たいそう小柄(こがら)で、なよなよとおかわいらしいだけでいらっしゃるの。
「入道の上皇様にお会いなさるのは七年ぶりですね。大人になったと思っていただけるように、お振舞いに気をつけてお目にかからなければいけませんよ」
そんなことまで丁寧にお教えになる。
<こういうことをしてくださる夫君(おっとぎみ)がいらっしゃるおかげで、姫宮様の幼いご性格が世間に()れず、品位(ひんい)(たも)っておられるのだ>
女房(にょうぼう)たちは感謝しながら拝見している。