野いちご源氏物語 三三 藤裏葉(ふじのうらば)

帝(みかど)からのお祭りへのお使者(ししゃ)は、内大臣(ないだいじん)様のご長男と惟光(これみつ)の娘がお務(つと)めになった。
惟光の娘は舞姫(まいひめ)をしたあと、内裏(だいり)で典侍(ないしのすけ)として働いている。
帝や東宮(とうぐう)様から特別に信頼され、源氏(げんじ)の君(きみ)も気にかけておられるから、いかにも立派な様子のお使者よ。

典侍(ないしのすけ)が出発しようとするところへ若君(わかぎみ)からのお手紙が届いた。
若君はひそかに典侍(ないしのすけ)を恋人になさっているの。
「賀茂(かも)神社(じんじゃ)のお祭りでよく見かける葉は何の葉だっただろう。たしか、『会おう』に似た名前の植物だったと思うけれど、ずいぶん長く会えていない私たちですね」

若君が内大臣(ないだいじん)様の姫君(ひめぎみ)とご結婚なさったことを典侍(ないしのすけ)は知っている。
<それでも今日だけはお使者に選ばれた私を思い出してくださったのだ>
乗り物に乗る直前のあわただしいときだったけれど、お返事を書いた。
「あなた様のような博学(はくがく)な方がお分かりにならないのなら、私などにはとても」
短いものの心(こころ)憎(にく)いお返事で、やはりこの恋人を捨てることはおできにならないでしょうね。