恋愛(ピュア)
完
伊桜 礼菜/著

- 作品番号
- 1755826
- 最終更新
- 2025/07/12
- 総文字数
- 20,903
- ページ数
- 64ページ
- ステータス
- 完結
- PV数
- 48,856
- いいね数
- 21
——「好き」って、言えなかった。ずっと。
赤木澪(あかぎ・みお)は、27歳。
都内の中堅メーカー、広報課所属。地味だけど真面目、頼まれたことはきっちりやるタイプ。周囲から見れば「おとなしいけど愛嬌のある人」で通っている。社内の飲み会では聞き役に徹し、派手な格好もせず、ほどよく「無難」であり続けた。
でも、その「ほどよく」の下に隠された一つの秘密があった。
——私は、スー女。
相撲が好きすぎる女。
誰にも言っていない。言えるわけがなかった。
学生時代にたまたまテレビで見た名勝負。がっぷり四つに組んだ取組の、静と動のコントラスト。あの時から、澪は相撲に恋をした。
気づけば、深夜にYouTubeで過去の取組を見漁り、Instagramで力士の投稿を追い、相撲部屋の稽古見学にも行っていた。
でも——誰にも言えなかった。
「引かれたらどうしよう」
「男っぽい趣味って思われたくない」
「相撲って、汗とかぶつかり合いとか、なんかちょっと……って顔、されたことがある」
だから、澪は決めていた。
好きは、胸の奥に閉じ込めるものだと。
……そんな彼女の平穏な(?)日常に、ある日突然、異変が訪れる。
「なに見てるの?」
その声を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
そこに立っていたのは、広報課の2つ上の先輩・神崎圭吾(かんざき・けいご)。
身長は180を超えているだろうか。シャツの袖をまくった腕に無駄な肉はなく、でも威圧感もない。眼鏡をかけていない日はやけに大人っぽく見える。
課内の女子たちから「顔がいい」「仕事ができる」「でも軽くない」と評判の、いわば“無敵男子”。
澪のPCには、取組動画が映っていた。しかも、彼女の最推し——若手関取の蒼ノ島(あおのしま)の、シーンが止まっている。
(やばい。見られた?)
澪は慌ててウィンドウを閉じようとするが、指が震えて操作がままならない。
「……相撲、好きなの?」
その言葉に、血の気が引いた。
でも、次の一言で世界が変わる。
「俺も好きだよ。兄貴が床山でさ。たまに観に行くんだ」
——え?
予想外の展開に、固まる澪。
その日から始まる、「隠れスー女」と「床山の弟」のちょっと不器用で、でも甘い恋の話——。
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