図書館のあるじさま!~読書ぎらいのわたしが図書委員になったら分類男子のあるじになりました!~

「『ビブリティカ』なんて、久しぶりに聞いたな。ボクが高等部を卒業して以来かな」
「あーっ! 上野(うえの)さん。お久しぶりです!」

 さっきまで田部先輩に静かにするように注意していたはずの温品先輩が急に大声を上げると、そのまま田部先輩と一緒に背筋を伸ばして深く頭を下げる。
 何が起こったのかわからなくてキョロキョロしていると、上野さんと呼ばれたお兄さんが静かに笑ったのだった。

「見たことない顔だけど、もしかして一年生?」
「はい。この春に入学しました中等部一年Bクラスの十司文と言います」
「ああ。君が国下先輩が言っていた、作家の十司英蒔のお嬢さん?」

 上野さんの口からパパの名前が出た途端に先輩たちは「十司英蒔の娘!?」、「ウソ!? うちの学校にいたの!?」と声をひっくり返す。
 その瞬間にわたしの顔がカッ〜と真っ赤になる。
 も〜! こうなるから知り合いが誰もいないこの学園に入学したのにっ!
 国下先生ってば、誰にどこまで話したんだろう……。

「すごいっ! 十司英蒔って、いま映画館でやっている映画の元になった小説を書いた人だよね!?」
「君は図書委員になるべくしてなったのだな!」
「お父さんが小説家ってことは、本が好きなの?」
「えっ! えっ、えっと〜まあ、ほどほどに?」

 先輩たちからの質問ぜめに「ははははっ……」と笑って適当に誤魔化したけれども、やっぱりパパが小説家だと本が好きって思われても仕方ないよね。

「ボクは上野玖耶(きゅうや)。永都学園大学部の図書館で働く司書でね。今日は図書委員のみんなに図書館の使い方をレクチャーするために来たんだ」

 市外にある永都学園の大学部には、この図書館とは別に図書館があるという話はパパから聞いていた。
 そっちは最近建て直しされたばかりの真新しい図書館で、ここの図書館よりももっと難しい専門的な難しい本がたくさん置いてあるってパパが話していたっけ。

「上野さんは司書の田中さんが休みの時や図書委員会の集まり、あとは夏休みの蔵書点検の時に図書館に来てくれるんだ」
「蔵書点検?」
「図書館の本があるべき場所にしっかりあるかチェックすることだ。図書館の中にあることになっている本でも、誰かがまちがって別の棚に戻していることや勝手に持ち出されていることもあるからな。使いたい人が使えるように、本が正しい場所にあるか確認する作業のことだ」
「防犯用のゲートがあるのに勝手に持ち出されていることもあるんですか?」

 図書館の入り口には貸出していない本が外に持ち出されかけた時にブザーが鳴るように、防犯用ゲートが設置されている。図書館の本にはそれぞれ防犯用のタグと呼ばれる小さなチップが付けられていて、貸出をしていない本がゲートを通るとそのタグが反応してブザーが鳴る仕組みなんだって。
 ゲートの見た目こそお店の出入り口にあるような万引き防止のゲートと同じ形なんだけど、ブザーが鳴ったところを見たことがないから本当に防犯の役割を果たしているのか気になっていたんだよね。

「防犯用のゲートがあると言っても、そもそも本に付いているタグ自体が壊れていたら防犯用のブザーが鳴らないから意味が無いんだよね。それ以外でも本が無くなる原因として、貸出の時にボクたちが本の貸出手続きができていなかった場合も考えられるんだ」

 これもスーパーでの買い物と同じで、お客さんが商品をレジに持って行っても、レジ打ちする店員さんが商品のバーコードを読み取り忘れてしまうと、お金を支払う時にバーコードを読み忘れた分の商品のお金が入っていないことになる。
 お客さんも金額がまちがっていることに気付かなければ、お金を支払わないままでスーパーから出て行ってしまう。
 つまりお客さんに盗むつもりが無くても、お金を払っていない以上は泥棒と同じになってしまうってことだね。たとえ悪いのはバーコードを読み忘れた店員さんだとしても、事情を知らない他の人からしたらお客さんが万引きしたみたいになっちゃうみたいな。