そして次の日の放課後にまた一人で図書館に行ったけれども、相変わらず図書館は誰もいないようで図書館用の専用のスリップが並んでいる棚には自分以外の靴は見当たらなかった。放課後のこの時間帯は部活動や委員会活動があるから来る人が少ないのかもしれないけれども、それしたって一人や二人は来たって良さそうなものなのに。うちの学校は中学部と高等部を併せて三百人前後いるのだから……。
(これくらい静かな方が落ち着くけれどもね。でもちょっと寂しいな……)
そんなことを考えながら入館ゲートに生徒証をかざして中に入ったところで、図書館内に響き渡るくらいの大声が奥から聞こえてきたのだった。
「――だからっ!! おれはいやだって言っているのっ!! あんな子がおれたちのあるじになるなんて、おれは認めないんだからねっ!!」
声が聞こえてきた方に早足で向かうと、そこは昨日歴彦という男の人と話したカウンターで、今はカウンター越しにその歴彦という人とサクと喧嘩した際にうるさいと注意をしてきた女の子のように可愛い栗毛の男の子が言い争っているところだった。
「心聖さん、そう怒らないでください。十司さんはまだ入学されたばかり。何も知らない中で、急に私たち『ビブリティカ』のあるじになるように言っても困るだけでしょう」
「あの子、『わたしなんて関係ない』って言ったんだよ。それにあのチビサクにだって、『好きで図書委員になったわけじゃない』って言ってたし、あんな子がおれたちを救うカギになるわけないよ! もうおれたちは消えるしかないんだ。いずれはおれもツグ兄だって……」
「……まだそうと決まったわけではありません。十司さんだってきちんと話してみないわけには……おやっ?」
話に割り込めなくて離れたところから様子を伺っていると、歴彦さんと目が合ってしまう。軽く頭を下げたところで、心聖と呼ばれた栗毛の男の子も振り返ったのだった。
「あれ、来たんだ。てっきりもう来ないと思っていた」
「心聖さん、そういう言い方はよくありません。こんにちは、十司さん。本をお探しですか?」
歴彦さんに注意されて心聖くんはフンっと膨れっ面で横を向いたが、その拍子に昨日は気付かなかった左目の下に二つ並んだ泣き黒子を見つけてしまって、なんとなく生意気な態度を取る小学生のような幼さを感じてしまう。この心聖くんも昨日会ったサクって子やわたしと同い年くらいだもんね。かっこいいというより、かわいいって言葉が似合いそう。
「いえ、今日は本を探しているんじゃなくて、その昨日会ったサクって名前の金髪の男の子に会いに来たんです」
「総玖さんですか?」
「昨日喧嘩をしてしまって……昨日『0類』の棚に本を戻しに行った時に、どこの棚に仕舞ったらいいのか分からなくて困っていたら助けてくれたんです。それなのにひどいことを言ってしまって……お礼もまだ言っていなかったから、きちんと謝ってお礼をしたくて……」
これまで誰かと喧嘩らしい喧嘩をしていなかったから喧嘩も仲直りも初めて。誰かと喧嘩すると気になって心がモヤモヤして一日中落ち着かない気持ちになるんだね。
総玖くんもこんな気持ちになっているのかな。早く会ってしっかり話したい。
けれども歴彦さんと心聖くんは顔を見合わせる暗い顔をしてしまう。そしてカウンターから立ち上がった歴彦さんが、「奥のコワーキングスペースへどうぞ」と案内してくれたのだった。
この図書館の奥にはコワーキングスペースって呼ばれる自習室がある。
各階にも閲覧用の席はあるけれども友達同士で勉強していると会話がうるさいってことで、数年前にできたのがこのコワーキングスペースなんだって。
それでも会話ばかりしていると他の自習している人たちの迷惑になってしまうから、そこで会話ができるように壁で囲まれた個室も作られたんだ。
誰もいないコワーキングスペースなら別に個室じゃなくてもいいような気がするけど、他の人に聞かれたくない話でもするのかな。
「ちょうど私と心聖さんも十司さんと話したいと思っていたところです。私たちはこの図書館から出ることができませんから……」
「それはみなさんが『ビブリティカ』と呼ばれていることと、関係があるんですか?」
「おや。総玖さんから聞きましたか?」
「よくは聞いていませんが、わたしが『ビブリティカ』のあるじかって聞かれたので……」
あの時、総玖くんは「歴彦が言っていた」と言っていた。それなら目の前にいる歴彦さんがわたしを「ビブリティカ」のあるじと総玖くんに伝えたことになる。
歴彦さんは何を思って、わたしを「ビブリティカ」のあるじだと思ったのだろう。
そして四人掛け席の個室に入ると、わたしの向かいに歴彦さんと心聖くんが座る。心聖くんはまだまだ機嫌が悪そうだったけど、そんな心聖くんを放って歴彦さんが話し始める。
「改めまして、私の名前は歴彦と言います。『2類』を司る『ビブリティカ』です。こちらは心聖さん。『1類』の『ビブリティカ』です。昨日十司さんが会った総玖さんというのが『0類』の『ビブリティカ』になります」
歴彦さんの紹介で心聖くんに目を移すけれども、心聖くんはフンと顔を背けただけだった。
「私たち『ビブリティカ』は図書館で使われている分類から生まれました。分類については昨日簡単に説明しましたよね」
「ええっと……図書館の本を十個のグループに分けているのが分類……でしたっけ?」
実は休み時間の間に図書館の分類について調べたんだよね。ちょうど教室にあった学級文庫の中に、図書館の便利な使い方について書かれた本があったから。
それによると、図書館には「0類」の「総記」、「1類」の「哲学」、「2類」の「歴史」以外にも、法律や教育といった社会に関する本をまとめた「3類」の「社会科学」、動物や医学などの自然にまつわる本が中心の「4類」の「自然科学」、機械や食べ物など機械の本の「5類」の「工業」がある。
たまにパパは「自分の小説に使うから」って薬品や武器に関する本を図書館から借りてきているけれども、「4類」の「自然科学」や「5類」の「工業」の棚から借りていたのかも。
私が読む動物に関する本も「4類」の「自然科学」にあるみたい。
あとは園芸やお店の「6類」の「産業」、美術や音楽の「7類」の「芸術」、いろんな国のことばを集めた「8類」の「言語」、そして日本や外国の小説をまとめた「9類」の「文学」があるんだって。
パパが書いている小説はこの「9類」の「文学」にあるとか。
言われてみれば、昔パパに連れて行ってもらった近所の図書館には、パパの本は「9」から始まる本棚にあったかも。
「そうです。私は国の歴史や偉人の本に割り当てられる『2類』から、心聖さんは人の心や昔の人の教えをまとめた心理や哲学の本の『1類』から生まれました。分類の数だけ『ビブリティカ』がいます」
昨日の歴彦さんの話だと図書館の分類は「0類」から「9類」まであるということだから、つまり歴彦さんや心聖くんたち以外にも、「3類」から「9類」までの「ビブリティカ」がいるってことなんだね。
その割には総玖くんも含めて、今のところ三人しか見かけていないような……。
(これくらい静かな方が落ち着くけれどもね。でもちょっと寂しいな……)
そんなことを考えながら入館ゲートに生徒証をかざして中に入ったところで、図書館内に響き渡るくらいの大声が奥から聞こえてきたのだった。
「――だからっ!! おれはいやだって言っているのっ!! あんな子がおれたちのあるじになるなんて、おれは認めないんだからねっ!!」
声が聞こえてきた方に早足で向かうと、そこは昨日歴彦という男の人と話したカウンターで、今はカウンター越しにその歴彦という人とサクと喧嘩した際にうるさいと注意をしてきた女の子のように可愛い栗毛の男の子が言い争っているところだった。
「心聖さん、そう怒らないでください。十司さんはまだ入学されたばかり。何も知らない中で、急に私たち『ビブリティカ』のあるじになるように言っても困るだけでしょう」
「あの子、『わたしなんて関係ない』って言ったんだよ。それにあのチビサクにだって、『好きで図書委員になったわけじゃない』って言ってたし、あんな子がおれたちを救うカギになるわけないよ! もうおれたちは消えるしかないんだ。いずれはおれもツグ兄だって……」
「……まだそうと決まったわけではありません。十司さんだってきちんと話してみないわけには……おやっ?」
話に割り込めなくて離れたところから様子を伺っていると、歴彦さんと目が合ってしまう。軽く頭を下げたところで、心聖と呼ばれた栗毛の男の子も振り返ったのだった。
「あれ、来たんだ。てっきりもう来ないと思っていた」
「心聖さん、そういう言い方はよくありません。こんにちは、十司さん。本をお探しですか?」
歴彦さんに注意されて心聖くんはフンっと膨れっ面で横を向いたが、その拍子に昨日は気付かなかった左目の下に二つ並んだ泣き黒子を見つけてしまって、なんとなく生意気な態度を取る小学生のような幼さを感じてしまう。この心聖くんも昨日会ったサクって子やわたしと同い年くらいだもんね。かっこいいというより、かわいいって言葉が似合いそう。
「いえ、今日は本を探しているんじゃなくて、その昨日会ったサクって名前の金髪の男の子に会いに来たんです」
「総玖さんですか?」
「昨日喧嘩をしてしまって……昨日『0類』の棚に本を戻しに行った時に、どこの棚に仕舞ったらいいのか分からなくて困っていたら助けてくれたんです。それなのにひどいことを言ってしまって……お礼もまだ言っていなかったから、きちんと謝ってお礼をしたくて……」
これまで誰かと喧嘩らしい喧嘩をしていなかったから喧嘩も仲直りも初めて。誰かと喧嘩すると気になって心がモヤモヤして一日中落ち着かない気持ちになるんだね。
総玖くんもこんな気持ちになっているのかな。早く会ってしっかり話したい。
けれども歴彦さんと心聖くんは顔を見合わせる暗い顔をしてしまう。そしてカウンターから立ち上がった歴彦さんが、「奥のコワーキングスペースへどうぞ」と案内してくれたのだった。
この図書館の奥にはコワーキングスペースって呼ばれる自習室がある。
各階にも閲覧用の席はあるけれども友達同士で勉強していると会話がうるさいってことで、数年前にできたのがこのコワーキングスペースなんだって。
それでも会話ばかりしていると他の自習している人たちの迷惑になってしまうから、そこで会話ができるように壁で囲まれた個室も作られたんだ。
誰もいないコワーキングスペースなら別に個室じゃなくてもいいような気がするけど、他の人に聞かれたくない話でもするのかな。
「ちょうど私と心聖さんも十司さんと話したいと思っていたところです。私たちはこの図書館から出ることができませんから……」
「それはみなさんが『ビブリティカ』と呼ばれていることと、関係があるんですか?」
「おや。総玖さんから聞きましたか?」
「よくは聞いていませんが、わたしが『ビブリティカ』のあるじかって聞かれたので……」
あの時、総玖くんは「歴彦が言っていた」と言っていた。それなら目の前にいる歴彦さんがわたしを「ビブリティカ」のあるじと総玖くんに伝えたことになる。
歴彦さんは何を思って、わたしを「ビブリティカ」のあるじだと思ったのだろう。
そして四人掛け席の個室に入ると、わたしの向かいに歴彦さんと心聖くんが座る。心聖くんはまだまだ機嫌が悪そうだったけど、そんな心聖くんを放って歴彦さんが話し始める。
「改めまして、私の名前は歴彦と言います。『2類』を司る『ビブリティカ』です。こちらは心聖さん。『1類』の『ビブリティカ』です。昨日十司さんが会った総玖さんというのが『0類』の『ビブリティカ』になります」
歴彦さんの紹介で心聖くんに目を移すけれども、心聖くんはフンと顔を背けただけだった。
「私たち『ビブリティカ』は図書館で使われている分類から生まれました。分類については昨日簡単に説明しましたよね」
「ええっと……図書館の本を十個のグループに分けているのが分類……でしたっけ?」
実は休み時間の間に図書館の分類について調べたんだよね。ちょうど教室にあった学級文庫の中に、図書館の便利な使い方について書かれた本があったから。
それによると、図書館には「0類」の「総記」、「1類」の「哲学」、「2類」の「歴史」以外にも、法律や教育といった社会に関する本をまとめた「3類」の「社会科学」、動物や医学などの自然にまつわる本が中心の「4類」の「自然科学」、機械や食べ物など機械の本の「5類」の「工業」がある。
たまにパパは「自分の小説に使うから」って薬品や武器に関する本を図書館から借りてきているけれども、「4類」の「自然科学」や「5類」の「工業」の棚から借りていたのかも。
私が読む動物に関する本も「4類」の「自然科学」にあるみたい。
あとは園芸やお店の「6類」の「産業」、美術や音楽の「7類」の「芸術」、いろんな国のことばを集めた「8類」の「言語」、そして日本や外国の小説をまとめた「9類」の「文学」があるんだって。
パパが書いている小説はこの「9類」の「文学」にあるとか。
言われてみれば、昔パパに連れて行ってもらった近所の図書館には、パパの本は「9」から始まる本棚にあったかも。
「そうです。私は国の歴史や偉人の本に割り当てられる『2類』から、心聖さんは人の心や昔の人の教えをまとめた心理や哲学の本の『1類』から生まれました。分類の数だけ『ビブリティカ』がいます」
昨日の歴彦さんの話だと図書館の分類は「0類」から「9類」まであるということだから、つまり歴彦さんや心聖くんたち以外にも、「3類」から「9類」までの「ビブリティカ」がいるってことなんだね。
その割には総玖くんも含めて、今のところ三人しか見かけていないような……。



