図書館のあるじさま!~読書ぎらいのわたしが図書委員になったら分類男子のあるじになりました!~

「文ちゃん、良かったよ~。三階で問題を解いていたら、突然棚から本が降ってきて怖かったんだ~!」
「棚から本が降ってきたの? それってどこの棚?」
「あそこ。棚に『1』って書いてあって、ハートのシールが貼ってある棚」

 このハートのシールっていうのは、今回のお宝さがしツアーのために図書委員のみんなで作って棚に貼ったんだ。
 それぞれ分類ごとに動物やモノ、記号のシールを作って、図書委員のみんなが手書きしてくれた問題文を元にそのシールに書かれた文字を集めて文章を完成させて景品を渡すって内容だったんだけど、夏樹ちゃんが教えてくれた棚に向かうと問題文はビリビリに破れていて、『1類』の本も床を埋め尽くすくらいに落ちていた。
 いったい誰がこんなことをしたのか、言葉に詰まってショックで涙が溢れそうになる。

「どうして……みんなで用意したのになんで……」
「こんなの一人しかいないだろう……オレたちが図書館に人を呼ぶのをよく思っていない奴がよ!」

 悔しそうに歯嚙みしながら顔を真っ赤にした総玖くんとは反対に、歴彦さんは悲しそうに目を伏せる。二人は誰がこんなことをしたか知っているんだ。
 誰なんだろうと思ったけれども、そんなことを考える前に様子を見ていた人たちの話し声が聞こえてきた。

「……どう見ても続けられる様子じゃないよな」
「だな。途中まで楽しかったのにがっかりだ……」

 その言葉が合図になったようにお宝さがしツアーに参加していた人たちがぞろぞろと階段を降りていってしまう。わたしは「待って!」と声を掛けたものの、みんなの足が止まることはなかった。
 そして最後までその場に残っていた夏樹ちゃんも壁掛け時計を確認すると、「ごめんね」と両手を合わせる。

「本当は最後までクイズをしたかったんだけど、でも続けられる雰囲気じゃないし、次の授業の用意もしなきゃだから、もう帰るね」
「えっ……でもすぐに片付けるから!」
「文ちゃんの熱意はすごいと思うよ。でもこんな状態じゃ、安心してクイズなんて続けられないよ。また上から本が落ちてきたら怖いもの」

 夏樹ちゃんは何度も「ごめんね」と言いながら階段を降りてしまう。他の階で問題を解いていた人たちやこれからお宝さがしツアーに参加するところだった人たちも、不安そうにしていたのだった。
 みんなの暗い顔を見ていると、急に温度が下がったように感じられて胸が苦しくなった。
 田部先輩や温品先輩たち図書委員のみんなや上野さん、田中さんや国下先生といった、このお宝さがしツアーのために協力してくれた人たちの顔が順番に頭の中に浮かんでは罪悪感で目に涙が溢れてくる。

「どうしよう。このままじゃ……せっかくみんな手伝ってくれたのに……これじゃあ失敗しちゃう……」
「落ち着け! 文っ!」

 息が詰まりそうになって今にも泣きそうになっていると、総玖くんに肩を掴まれて揺さぶられたのだった。

「このイベントを企画したお前が不安にどうするんだ! すぐに棚を片付けるぞ! オレたちも手伝う!」
「総玖くん……」
「そうですね。イベントはまだ始まったばかりです。こんな失敗は誰だってあります。いまはこの状況を立て直すことを考えましょう」

 総玖くんに同意するように、歴彦さんも大きく頷いてくれる。図書館がこんなことになって辛いのは「ビブリティカ」の二人なのに、それなのに二人はわたしをなぐさめてくれる。
 その気持ちが嬉しくて、手の甲で涙を拭きながら「うん!」とわたしは大きく頷く。
 
「歴彦の言う通りだ。問題文はパソコンで作って印刷をすればいい。田中に言って、事務室で作ってもらって印刷してもらえ」
「本棚については上野くんにも声を掛けて復旧を手伝ってもらいましょう。私たちも合わせて四人でやればすぐに終わります」
「それまで三階の問題は配布しないで、一、二階の問題を解いてもらえ。受付を田中に代わってもらって、このことを伝えれば……」
「ムダだよ」

 その声に振り向けば、いつの間にか本棚の上に心聖くんが座って不機嫌そうに顔を歪めていた。

「てめぇ、心聖! これ全部お前のしわざだろう!!」

 今にも掴みかかりそうに勢いで総玖くんが声を荒げる。状況についていけないわたしは「えっ!? 心聖くんが!?」と二人を見比べることしかできなかった。
 
「最初に言っただろう? おれはそんな奴をあるじになんて認めないって。本がきらいであるじになる気もない奴が中途半端に首を突っ込まれた方が迷惑だ。チビサクもツグ兄もほだされちゃって、バカじゃないの?」
「心聖、わかっているのか!? こいつがいなきゃ、おれたちはもう消えるしかないんだ! これは最後のチャンスなんだ! こいつには何がなんでも全ての『ビブリティカ』のあるじになってもらう! 残り六人の『ビブリティカ』だって、こいつならきっと目覚めさせられる!」
「文さんはこれまでのあるじ候補とはちがいます。すでに私()()とあるじの契約も済ませました。心聖さんもどうか文さんに心を開いてみませんか。文さんならきっと私たちの力になります」

 総玖くんや歴彦さんが説得しても、心聖くんは頑なに心を閉ざしたままだ。わたしは掌をぐっと握りしめると、すうっと大きく息を吸う。

「心聖くんは前に言っていたよね? わたしが本なんて全然わからないって言った時に、『そんなあるじを支えるのもおれたちの役目』だって」

 歴彦さんから「ビブリティカ」について説明された時に、心聖くんはそう言っていた。大切なのはわたしがあるじになりたいかどうかだって……。
 あの時はまだ自分が総玖くんや歴彦さんたち「ビブリティカ」のあるじになる覚悟も、残りの「ビブリティカ」たちを目覚めさせられるか不安でたまらなかった。
 でも「ビブリティカ」のみんなのことを知った今ならちがう。こんなに楽しくて誰よりも図書館のことを大事に思っているみんなが消えてしまうのはイヤ。
 
「わたしは本のことは知らないけど、こうやって本に関わるイベントやゲームを通して本に関わるのは楽しいって思えたの。それに本だって全てが読みづらいわけじゃない。時間が無くても読める本、長い文章を読むのが苦手な人でも読める本があるって知ったから。わたしは読書がきらいだけど、同じように読書がきらいな人の気持ちがわかるから、きらいなりに読書がきらいな人のために本を選ぶことができるかもしれない」

 図書委員になった日にパパにも言われたっけ。「読書がきらいな図書委員がいたって良い。その人は読書がきらいな人の気持ちがわかる図書委員になれるから」って。
 読書がきらいなわたしなら、同じように読書がきらいな人に向けた本を探せるかもしれない。だってその人がどうして読書がきらいなのか、一番わかるから。

「今すぐに図書館や『ビブリティカ』のためにできることは少ないかもしれない。でもこれから一緒に頑張るから! 図書館だって取り壊してデジタル図書館になんてさせないで、もっと良い方法を一緒に考えるから。だから今はもう少しだけ、わたしたちに協力してくれないかな……? このイベントを成功させたいんだ!」
 
 わたしはじっと心聖くんを見つめていると、やがて観念したかのように「わかったよ!」と心聖くんは自分の頭をガリガリと乱暴に掻く。