「十司さん? お気遣いは不要ですよ。こればかりは仕方がないのです。もうこの図書館が建てられた時とちがって本を読む人がいないのですから……」
「その『仕方ない』とか、『昔とはちがう』とか。どうして最初から諦めているんですか! まだ何もしていないのに! 決まったわけじゃないのに……」
「それは……」
「歴彦さんだって本当はまだあきらめていないんでしょ!? だからこうして少しでも本を借りてもらえるように紹介POPを作ったり、本をキレイに整えたりしている! 初めて会った時だって本の修理をしていましたよね? 誰も来なくて諦めているのなら修理なんてしなくたっていいのに……」
わたしが初めて図書館に来た時、歴彦さんは本を開いて半透明のテープを貼っていた。あれも後から思い返せば、ページが破れたり取れてしまったりした本を直していたことに気付く。誰も読む人がいないのなら、わざわざ本なんて直す必要なんてないのに。それなのに直したということは、歴彦さんはまだ誰かが読んでくれると思ったから。誰だって汚れた本や壊れた本は読みたくないよね。
これから読む人のことを考えられる歴彦さんは口では「仕方ない」、「昔とはちがう」と言いつつも、きっと心のどこかではまだあきらめきれなくて、人が来てくれることを信じているような気がした。
「今すぐは無理かもしれません。でもわたしも手伝います。そして一人でも多くの生徒に来てもらえるような図書館にしましょう! 昔のように」
このまま何もしないで終わるのはイヤだ。まだ何の行動もしていないのに、取り壊しだって決まったわけじゃないのに。
最初から「ムダ」とか「意味がない」と決めつけて「何もしない」のと、やれることだけをやったけれども「何もできなった」ではきっと意味がちがうから。
そしてやると言った瞬間に不思議とさっきまでモヤモヤしていた心がすぅーと晴れたような気がした。
「わたしにも何か手伝わせてください! 一緒に本の紹介文を考えたり、本を読みたくなるようなポスターを描いたりします。そうだ! 放送委員の友達に協力してもらって校内放送で呼びかけてもらうことだって……」
「ありがとうございます、十司さん。この図書館のために考えてくださって」
そして歴彦さんは立ち上がったが、わたしよりも頭一個分以上も高いからか自然と見下ろされる形になって心臓がバクバクと音を立て始める。
総玖くんや心聖くんはわたしと同じくらいの身長だったから年上って聞いてもあまり意識しなかったけれども、歴彦さんはいかにも大人って雰囲気もあってそわそわして落ち着かない気持ちになっちゃう。
「わたし、本当は本を読むのが苦手なんです。でも総玖くんや心聖くん、歴彦さんのことはきらいじゃありません。この図書館も最初は古くてお化け屋敷みたいで入りづらいって思ったけれども、入ってみたら静かで落ち着いて居心地が良くて。こんな場所が無くなってほしくないって思ったんです」
「十司さんの気持ちはとても嬉しいです。私たち『ビブリティカ』とこの図書館は一心同体……要は一つの存在なんです。この図書館が取り壊されてしまえば、私たちは消えるしかありません。取り壊される日まで『ビブリティカ』としての役目を果たせれば良いと思いました」
そして歴彦さんは私の手を取るとそっと包んでくれる。熱の通った手はわたしたち生きている人と同じように温かくて、「ビブリティカ」という別の存在とは到底思えなかった。
「ですが、十司さんに言われて気付きました。私もどこかあきらめきれなかったのかもしれません。きっとまた昔のように本が好きな生徒さんが来てくれる、この図書館で本を好きになってくれる生徒さんがきっと現れるって。私たちはこの図書館がきっかけに本を好きになってくれる生徒さんたちの姿を見るのが何よりも楽しかったのです。それを十司さんが思い出させてくれました」
「私はそんな大したことはしていません……」
「そんな十司さんに私も自分の運命を託したいと思います……私と契約してあるじになっていただけますか? 貴方のために私は持てる力の全てを振るいましょう」
「あるじって……あっ……!」
あるじになるか迷っている間にも歴彦さんは膝を曲げると、わたしの額にとんっと軽くキスをしてくれる。指先で触れるのと同じくらい一瞬の出来事で、何も言えずにいるとさっさと身体を離してしまう。そして歴彦さんは「契約できましたね」と微笑んだのだった。
「この『2類』を司る『ビブリティカ』の歴彦。これからは十司さん、いえ文さんのために力を尽くしましょう。どうぞご命令ください」
「命令って言われても、何をどうしたらいいのか……」
「簡単です。『この図書館で人と本のキズナを結ぶために力を貸して』と言えばいいのです。本と人のキズナをまた結び続ければ、眠りについた『ビブリティカ』たちもまた目覚めるでしょう。そして残りの『ビブリティカ』を目覚めさせて、全ての『ビブリティカ』と文さんが契約を交わしてあるじになれたのなら、この図書館はきっと昔のように活気ある場所に戻れます。取り壊しの話もきっとなくなります」
「えっと……人と本のキズナを結ぶためにも、まずは図書館に人が来てもらう必要があるんですよね」
「そうなります。その案は私が持っています。実は昔の偉人が使った方法をいくつか組み合わせたものでもあるんですけどね。これには文さんと文さんのご友人の力が必要不可欠です。手伝っていただけますか?」
そうして歴彦さんが「図書館に人を呼ぶ案」を教えてくれる。すぐにできそうになかったけれど、図書委員のみんなや放送委員の夏樹ちゃんに頼んだらできるかもしれない。
「やってみましょう!」
わたしは歴彦さんと顔を見合わせて気合を入れる。そんなわたしたちの様子が見られていたことに、わたしはとうとう気付けないままだった。
◆◆◆
「その『仕方ない』とか、『昔とはちがう』とか。どうして最初から諦めているんですか! まだ何もしていないのに! 決まったわけじゃないのに……」
「それは……」
「歴彦さんだって本当はまだあきらめていないんでしょ!? だからこうして少しでも本を借りてもらえるように紹介POPを作ったり、本をキレイに整えたりしている! 初めて会った時だって本の修理をしていましたよね? 誰も来なくて諦めているのなら修理なんてしなくたっていいのに……」
わたしが初めて図書館に来た時、歴彦さんは本を開いて半透明のテープを貼っていた。あれも後から思い返せば、ページが破れたり取れてしまったりした本を直していたことに気付く。誰も読む人がいないのなら、わざわざ本なんて直す必要なんてないのに。それなのに直したということは、歴彦さんはまだ誰かが読んでくれると思ったから。誰だって汚れた本や壊れた本は読みたくないよね。
これから読む人のことを考えられる歴彦さんは口では「仕方ない」、「昔とはちがう」と言いつつも、きっと心のどこかではまだあきらめきれなくて、人が来てくれることを信じているような気がした。
「今すぐは無理かもしれません。でもわたしも手伝います。そして一人でも多くの生徒に来てもらえるような図書館にしましょう! 昔のように」
このまま何もしないで終わるのはイヤだ。まだ何の行動もしていないのに、取り壊しだって決まったわけじゃないのに。
最初から「ムダ」とか「意味がない」と決めつけて「何もしない」のと、やれることだけをやったけれども「何もできなった」ではきっと意味がちがうから。
そしてやると言った瞬間に不思議とさっきまでモヤモヤしていた心がすぅーと晴れたような気がした。
「わたしにも何か手伝わせてください! 一緒に本の紹介文を考えたり、本を読みたくなるようなポスターを描いたりします。そうだ! 放送委員の友達に協力してもらって校内放送で呼びかけてもらうことだって……」
「ありがとうございます、十司さん。この図書館のために考えてくださって」
そして歴彦さんは立ち上がったが、わたしよりも頭一個分以上も高いからか自然と見下ろされる形になって心臓がバクバクと音を立て始める。
総玖くんや心聖くんはわたしと同じくらいの身長だったから年上って聞いてもあまり意識しなかったけれども、歴彦さんはいかにも大人って雰囲気もあってそわそわして落ち着かない気持ちになっちゃう。
「わたし、本当は本を読むのが苦手なんです。でも総玖くんや心聖くん、歴彦さんのことはきらいじゃありません。この図書館も最初は古くてお化け屋敷みたいで入りづらいって思ったけれども、入ってみたら静かで落ち着いて居心地が良くて。こんな場所が無くなってほしくないって思ったんです」
「十司さんの気持ちはとても嬉しいです。私たち『ビブリティカ』とこの図書館は一心同体……要は一つの存在なんです。この図書館が取り壊されてしまえば、私たちは消えるしかありません。取り壊される日まで『ビブリティカ』としての役目を果たせれば良いと思いました」
そして歴彦さんは私の手を取るとそっと包んでくれる。熱の通った手はわたしたち生きている人と同じように温かくて、「ビブリティカ」という別の存在とは到底思えなかった。
「ですが、十司さんに言われて気付きました。私もどこかあきらめきれなかったのかもしれません。きっとまた昔のように本が好きな生徒さんが来てくれる、この図書館で本を好きになってくれる生徒さんがきっと現れるって。私たちはこの図書館がきっかけに本を好きになってくれる生徒さんたちの姿を見るのが何よりも楽しかったのです。それを十司さんが思い出させてくれました」
「私はそんな大したことはしていません……」
「そんな十司さんに私も自分の運命を託したいと思います……私と契約してあるじになっていただけますか? 貴方のために私は持てる力の全てを振るいましょう」
「あるじって……あっ……!」
あるじになるか迷っている間にも歴彦さんは膝を曲げると、わたしの額にとんっと軽くキスをしてくれる。指先で触れるのと同じくらい一瞬の出来事で、何も言えずにいるとさっさと身体を離してしまう。そして歴彦さんは「契約できましたね」と微笑んだのだった。
「この『2類』を司る『ビブリティカ』の歴彦。これからは十司さん、いえ文さんのために力を尽くしましょう。どうぞご命令ください」
「命令って言われても、何をどうしたらいいのか……」
「簡単です。『この図書館で人と本のキズナを結ぶために力を貸して』と言えばいいのです。本と人のキズナをまた結び続ければ、眠りについた『ビブリティカ』たちもまた目覚めるでしょう。そして残りの『ビブリティカ』を目覚めさせて、全ての『ビブリティカ』と文さんが契約を交わしてあるじになれたのなら、この図書館はきっと昔のように活気ある場所に戻れます。取り壊しの話もきっとなくなります」
「えっと……人と本のキズナを結ぶためにも、まずは図書館に人が来てもらう必要があるんですよね」
「そうなります。その案は私が持っています。実は昔の偉人が使った方法をいくつか組み合わせたものでもあるんですけどね。これには文さんと文さんのご友人の力が必要不可欠です。手伝っていただけますか?」
そうして歴彦さんが「図書館に人を呼ぶ案」を教えてくれる。すぐにできそうになかったけれど、図書委員のみんなや放送委員の夏樹ちゃんに頼んだらできるかもしれない。
「やってみましょう!」
わたしは歴彦さんと顔を見合わせて気合を入れる。そんなわたしたちの様子が見られていたことに、わたしはとうとう気付けないままだった。
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