雲の上の学校

天気……一年を通して雪が残っている山は雪山と呼ばれている。ぼくたちが今、向かっている山はとても高い。山頂付近の気温は一年を通して零下二十度を上がることはないと、ミー先生が話していた。山頂の雪は、万年雪となって、地面にかたく凍りついているそうだ。

タンチョウに乗って、仙人池の源流をめざして旅に出たぼくたちは、数時間の飛行のあと、ようやく、源流が流れている山のふもとにやってくることができた。雲一つなく澄みわたった青空のもとで、白い雪帽子をかぶりながら堂々とそびえたっている山の威容に、ぼくの心は、感動でときめいていた。自然が作り出した美しい芸術作品が目の前に広がっているように思えて、ぼくは桃源郷にやってきたような錯覚さえ覚えていた。山のふもとを川が何度も蛇行しながら、ゆっくりと流れていた。
「山の中腹からふもとにかけて積もっている雪は、春から夏にかけて徐々に融けて、くねくねと曲がりながら、下流のほうへ向かって、静かに流れていきます」
ミー先生が、子どもたちに、そう話していた。子どもたちはタンチョウに乗ったまま、上空から川を見ながら、蛇行の数を数えていた。
「一回、二回、三回、四回、五回、六回、七回……多すぎて、もうこれ以上、数えきれない」
李くんが、ため息をついて、数えるのをあきらめていた。ぼくと老いらくさんも数えていたが、数の多さに、ついていけなかった。
タンチョウは川の流れとは逆の方向に、ぼくたちを乗せて飛んでいった。川をさかのぼれば、さかのぼるほど、気温が下がってきた。川幅も、だんだん狭くなってきた。
「ぼくたちはもう、仙人池の源流に着いたのではないのですか」
李くんが、ミー先生に聞いていた。
「そうですね。この辺りが仙人池の源流です」
ミー先生が、そう答えていた。
タンチョウは、それからまもなく、山の中腹まで飛んでくると、下へ降りていった。タンチョウが着地すると、ミー先生と子どもたちは、タンチョウの背中から降りた。ぼくと老いらくさんとシャオパイもタンチョウの背中から降りた。山の中腹に積もっている雪が、太陽の光を浴びて、だんだん、融けてきているのが、はっきりと見えた。雪解け水となって、はじめは筋のように細くゆっくり流れながら、あちこちから集まってきた小さな流れといっしょになって次第に川の原型のようなものができあがり、水の量が増えていっているのも分かった。下流に行けば行くほど、川幅が広くなって、水の量も増えていって、やがて大河となって海に注ぎ込むのだと思うと、ぼくは深いロマンを感じた。
山の中腹に降り立ったタンチョウは、源流のなかに、くちばしをさしこんで水を飲んでいた。それを見て、老いらくさんが
「タンチョウが長生きなのは、仙人果と仙人草を食べたり、源流の水を飲んでいるからかもしれないな」
と言った。
「そうかもしれないですね。ぼくたちも飲んでみませんか」
ぼくが、そう言うと、老いらくさんが、にっこり、うなずいた。
それからまもなく、ぼくと老いらくさんは、タンチョウの真似をして、水のなかに口を入れて飲んでみた。天然百パーセントの深山の水は、町の水道管から出る水とは味が全然違っていた。
「うん、おいしい。この水を毎日飲んだら、わしはもっと長生きできるかもしれない」
老いらくさんが、そう言った。
ミー先生も子どもたちもシャオパイも、手で水をすくって、源流の水を飲み始めた。
「冷たくて、おいしいですね」
唐さんが、さっぱりした顔をしながら、そう言った。
「天然のミネラルウオーターは、健康にとてもよいそうよ」
蒋さんが、そう言って、にっこり微笑んでいた。
ミー先生も、ほかの子どもたちも、みんな満ち足りたような顔をしながら水を飲んでいた。シャオパイも、うれしそうな顔をして、のどを、ごくごくいわせながら飲んでいた。
それからまもなく、空が急に曇ってきて、灰色の厚い雲が空全体を覆い始めた。
「雪雲だわ。もうすぐ雪が降るわ」
ミー先生が空を見上げながら、そう言った。
それから五分もたたないうちに、小雪がひらひらと舞ってきた。子どもたちは手で雪のかけらを受け止めて、雪をじっと見ていた。
「雪はどのようにしてできるのか、みなさん、知っていますか」
ミー先生が、子どもたちに聞いていた。
「知っています」
唐さんが手を挙げた。
「では唐さん、みんなに説明してください」
ミー先生が唐さんに、うながしていた。
「気温がとても低いときに、雲のなかにある氷の粒が凍ったまま、空から降ってきます。これが雪です」
と、唐さんが答えていた。
「そうですね。では唐さん、雪はどうして白いのか知っていますか」
「……」
唐さんは答に詰まっていた。
「ほかのみなさんは、分かりますか」
ミー先生が聞いていた。
「そんなこと考えたこともなかったよ」
李くんが、そう言った。
「雪は氷の粒が集まってできているのだから、雪の色は氷の色と同じように無色透明になるのが自然の理ですよね。どうして白くなるのかしら。不思議だわ」
唐さんが、首をかしげていた。
「そうですね。わたしも、そう思います」
王さんが、相づちを打っていた。
「雪の粒も、ひと粒ひと粒は、無色透明です。でも雪の粒に太陽の光が当たると、光が様々な方向に向かうために乱反射が起きます。乱反射が起きると、様々な色の光が同じように反射されて、そのとき、ものはすべて白く見えます。雪が白く見えるのは、そのためです」
ミー先生が、そう説明していた。
「では、水や氷が透明に見えるのは、乱反射が起きないからですか」
蒋さんが聞いていた。
「そうです。その通りです」
ミー先生が、そう答えていた。それを聞いて、子どもたちは目からうろこが落ちたような顔をしていた。
「ではみなさん、雪の結晶は、どのような形をしているか知っていますか」
ミー先生が聞いていた。
「知っています。六角形をしています」
唐さんが、そう答えていた。
「そうですね。雪の結晶は大体、六角形をしています。どうしてでしょうか」
ミー先生がさらに聞いていた。
「分かりません」
唐さんが首を横に振った。
「誰か分かりますか」
「……」
返事は返ってこなかった。
「雪は雲のなかにある水の分子が凍ってできますが、いちばん、できやすい形が六角形だからです。でもすべて六角形をしているわけではありません。よく観察すると、六角形のほかにも、いろいろな形の結晶があることが分かります。温度や湿度の違いによって、成長する分子の部分が異なっているので、いろいろな形の結晶が生じるのです」
ミー先生が、そう答えていた。それを聞いて、唐さんが
「へえ、知らなかった」
と言って、意外そうな顔をしていた。
「ほかには、どんな形のものがありますか」
王さんが聞いていた。
「星状のものや針状のものがあります。そのほか、柱状のものや、板状のものや、糸巻状のものや、扇状のものや、木の枝状のものもあります」
ミー先生が、そう答えていた。
「そんなに、いろいろな形をした雪の結晶があるのですか」
李くんが、びっくりしたような顔をしていた。
ミー先生が、うなずいていた。
「どの結晶にも、それぞれ違った美しさがあって、きらきらと輝いています。雪は天の神様からの崇高なプレゼントではないかと、わたしは思っています」
ミー先生が、そう言っていた。
それを聞いて、子どもたちは、うなずいていた。
時間が経つとともに、雪は、だんだん強くなってきた。初めは、ささめ雪のように、細かく、まばらに降っていたが、次第に、ぼたん雪のような、大きなかたまりとなって、ぼたぼたと落ちてきた。
陳くんが、雪で曇った眼鏡のレンズをハンカチで拭きながら
「雪には、どんな種類の雪があるのですか」
と、聞いていた。
「降っている雪と、積もっている雪とでは、それぞれ呼び方が違います」
ミー先生が、そう答えていた。
「降っている雪には、粉雪、灰雪、綿雪、餅雪、ぼたん雪、水雪、玉雪、ささめ雪などがあります。地面に積もっている雪には、新雪、ざらめ雪、しまり雪、こしまり雪、根雪、どか雪などがあります」
ミー先生の説明を聞いて、雪の種類の多さに、子どもたちはみんな驚いていた。
空から降りしきるぼたん雪は、山全体を覆いつくすように、音もなく、しんしんと積もっていた。
「この雪山の上では、今の時季はまだ毎日、このように雪が降り積もっています。雪の量が増えてきました」
ミー先生が、そう言った。するとそれからまもなく、激しい暴風雪が急に吹き始めた。子どもたちが慌てていると、タンチョウが、ミー先生や子どもたちの前に、さっと近寄ってきた。
「さあ、みなさん、早く乗ってください。安全なところへ避難しましょう」
ミー先生が、緊迫した面持ちで、子どもたちに呼びかけていた。子どもたちは、うなずいてから、すぐにタンチョウの背中に乗っていた。ぼくと老いらくさんとシャオパイも、タンチョウの背中に乗った。
「さあ、行くわよ」
子どもたちがみんなタンチョウに乗ったのを確認すると、ミー先生が、そう言った。
それからまもなく、タンチョウは暴風雪のなかを、果敢に飛び立っていった。暴風雪が激しかったから、ぼくは目を開けていることができなかった。そのために目をつむったまま、タンチョウの体に、しがみついていた。
するとしばらくしてから、荒れ狂う風の音が、だんだん弱くなっていくのが耳で分かった。ぼくはようやく目を開けた。すると暴風雪はいつのまにかやんでいた。空はよく晴れていて、青空が広がっていた。タンチョウは何事もなかったかのように、高い空を飛び続けていた。ミー先生も子どもたちも、老いらくさんもシャオパイも危機を切り抜けることができたので、ほっとした顔をしていた。