野いちご源氏物語 〇五 若紫(わかむらさき)

 若紫(わかむらさき)(きみ)にお仕えする女房(にょうぼう)女童(めのわらわ)が、少しずつ二条(にじょう)(いん)に集まってきていた。女童たちは姫君(ひめぎみ)の遊び相手をするのだけれど、(かた)苦しいご主人たちではないので、気楽に遊んでいる。
 源氏(げんじ)(きみ)がお留守(るす)の夕暮れ時などには、姫君はまだ尼君(あまぎみ)を恋しがって泣かれることもある。しかし父宮(ちちみや)のことは思い出しもなさらない。もともとめったにお会いにならないご関係だった。今はただ源氏の君を父親だと思って、すっかり(なつ)いていらっしゃる。
 源氏の君がどこかからお帰りになると、真っ先にお迎えに出て、お留守の間のお話をなさる。そのとき源氏の君のお(うで)()かれても、少しも嫌だとか恥ずかしいとかはお思いにならない。源氏の君にとって姫君は、たわいのないかわいらしい遊び相手だった。
 これが大人の男女だとこうはいかない。女性が嫉妬(しっと)などで面倒(めんどう)な態度を取ると、男性は「理想と違う」と思って離れていく。それをまた女性が(うら)んで、別れ話にまで発展(はってん)してしまう。
 姫君はそういう心配がいらないから、ただただかわいらしかった。実の娘であってもこのくらいの年になれば父親にべったりくっつきはしない。
<恋人とも娘とも違う、不思議な関係だ>
 と源氏の君は思っていらっしゃった。