野いちご源氏物語 〇五 若紫(わかむらさき)

 さて、そのころ姫君(ひめぎみ)のお屋敷には、父宮(ちちみや)がお迎えにいらっしゃっていた。ところが姫君のお姿がない。いったいどういうことかとお尋ねになるけれど、女房(にょうぼう)たちは源氏(げんじ)(きみ)からきつく口止めされている。
乳母(めのと)が勝手にどこかへお連れしてしまったようでございます」
 とだけ申し上げて、なんとかこの場を切り抜けようとした。
 宮はひどくがっかりなさる。
「あの乳母か。亡き尼君(あまぎみ)が私を嫌っておいでだったから、あの者も心の中では私に姫を渡したくないと思っていたのだろう。私の指示に従うようなふりをしながら、()()ぎたまねをするとは」
 しかしもはやどうしようもない。泣く泣くお帰りになる。
「見つかったらすぐに知らせよ」
 と言い置いていかれたのも、女房たちには心苦しい。
 念のため北山(きたやま)僧都(そうづ)にもお尋ねになったけれど、行方(ゆくえ)は分からないまま。
<かわいらしい姫であったのに>
 と恋しく悲しく思い出される。
 宮のご正妻(せいさい)も、姫君の母親を(にく)む気持ちはもう消えていた。母親代わりになってあげようというおつもりだったのに、あてが外れて残念がっていらっしゃる。