連日の雨の影響で町の雰囲気は暗く淀んでいる。隣町では雨による増水で氾濫が起き、甚大な被害があったとつい先日新聞に記載されたばかりだ。
「最近増えてきていますね」
雨こそ降っていないが、空は分厚い雲に覆われ灰色に染まっている。そんな空を見上げていた江波方は、小瀧の独り言として聞き流してしまうほどに小さな呟きが聞こえて彼を見た。
小瀧はある一軒家の前に立ち止まり、塀に囲まれた庭に立つ一本の木を真っ直ぐと睨みつけていた。
彼が見せるその表情は、おそらく誰も見たことがない険しいものである。
「例の噂のことか」
「ただの噂であれば良いのですが、流石に身内で被害者が出たとなると……」
「噂としては片付けられない、か。犯人がどういう条件で被害者達を選んでいるか分からない以上、下手をしたら自分が狙われるかもしれんからな」
季節外れのひんやりとした風が彼らの傍を通り過ぎる。
唐突な冷えに江波方は服の上から腕を擦った。横目でその様子を見ていた芝が鋭い視線を送るが、目を瞑って寒さに耐える江波方がその視線に気づくことはない。
「大丈夫だろうか……」
「何かあったのか?」
名前も知らない自分達の背丈よりも遥かに大きい木を見ながら、小瀧がぽつりと呟く。
その呟きを耳にした芝は、小瀧の視線を追ってその木を見つめる。見たことのないその木の名前など知るはずもない。そのお陰か、この木に対する違和感を芝が感じることはない。
「和加代さんの母親も被害に遭ったそうなんです。そしてその現場に彼女も居合わせたと」
「成人女性に成人男性の軍人、老婆から和加代ちゃんや蕗ちゃんと同じ年頃の子供まで。こうして挙げると益々共通点がないように思えてくるな」
「そこが不安なんです。共通点がはっきりしていないからこそ、次に狙われるような人を炙り出すことができない」
「俺達が狙われる可能性があれば、和加代ちゃんや柳凪の皆が狙われる可能性もある。そう言いたいんだな」
芝の指摘に小瀧は強く頷く。彼にとっての不安は、自分が狙われるというよりも彼女達が狙われてしまうのではないかという部分が強いらしい。
半分惚気話を聞かされた気がして、芝はすぐに視線を外して話を切り上げようとした。
しかし、それまで静かに話を聞いていた江波方が庭から見える木を見るなり声を上げた。その声で芝も小瀧も揃って彼に視線を移す。
「どうしてこの木を庭に植えているんだろう」
「この木が何なのか分かるのか?」
「樒です。根も葉も実も毒の植物。食せば呼吸困難や痙攣、意識障害等の中毒状態になり最悪の場合死に至る」
「随分と詳しいな」
「五十鈴さんに教えてもらったんです」
再び惚気話を聞かされた芝は完全に興味を失せ、足早にその場を去ろうとする。
つられて江波方もその場を動こうとするが、小瀧が樒を見つめたまま動こうととしないところを見て足を止めた。
「行かないんですか?」
「……気になりませんか」
「何を…………?」
樒を見つめる小瀧は、江波方に聞こえるか聞こえないかの声量で問う。
「普通、樒なんて庭に植えますかね」
「最近増えてきていますね」
雨こそ降っていないが、空は分厚い雲に覆われ灰色に染まっている。そんな空を見上げていた江波方は、小瀧の独り言として聞き流してしまうほどに小さな呟きが聞こえて彼を見た。
小瀧はある一軒家の前に立ち止まり、塀に囲まれた庭に立つ一本の木を真っ直ぐと睨みつけていた。
彼が見せるその表情は、おそらく誰も見たことがない険しいものである。
「例の噂のことか」
「ただの噂であれば良いのですが、流石に身内で被害者が出たとなると……」
「噂としては片付けられない、か。犯人がどういう条件で被害者達を選んでいるか分からない以上、下手をしたら自分が狙われるかもしれんからな」
季節外れのひんやりとした風が彼らの傍を通り過ぎる。
唐突な冷えに江波方は服の上から腕を擦った。横目でその様子を見ていた芝が鋭い視線を送るが、目を瞑って寒さに耐える江波方がその視線に気づくことはない。
「大丈夫だろうか……」
「何かあったのか?」
名前も知らない自分達の背丈よりも遥かに大きい木を見ながら、小瀧がぽつりと呟く。
その呟きを耳にした芝は、小瀧の視線を追ってその木を見つめる。見たことのないその木の名前など知るはずもない。そのお陰か、この木に対する違和感を芝が感じることはない。
「和加代さんの母親も被害に遭ったそうなんです。そしてその現場に彼女も居合わせたと」
「成人女性に成人男性の軍人、老婆から和加代ちゃんや蕗ちゃんと同じ年頃の子供まで。こうして挙げると益々共通点がないように思えてくるな」
「そこが不安なんです。共通点がはっきりしていないからこそ、次に狙われるような人を炙り出すことができない」
「俺達が狙われる可能性があれば、和加代ちゃんや柳凪の皆が狙われる可能性もある。そう言いたいんだな」
芝の指摘に小瀧は強く頷く。彼にとっての不安は、自分が狙われるというよりも彼女達が狙われてしまうのではないかという部分が強いらしい。
半分惚気話を聞かされた気がして、芝はすぐに視線を外して話を切り上げようとした。
しかし、それまで静かに話を聞いていた江波方が庭から見える木を見るなり声を上げた。その声で芝も小瀧も揃って彼に視線を移す。
「どうしてこの木を庭に植えているんだろう」
「この木が何なのか分かるのか?」
「樒です。根も葉も実も毒の植物。食せば呼吸困難や痙攣、意識障害等の中毒状態になり最悪の場合死に至る」
「随分と詳しいな」
「五十鈴さんに教えてもらったんです」
再び惚気話を聞かされた芝は完全に興味を失せ、足早にその場を去ろうとする。
つられて江波方もその場を動こうとするが、小瀧が樒を見つめたまま動こうととしないところを見て足を止めた。
「行かないんですか?」
「……気になりませんか」
「何を…………?」
樒を見つめる小瀧は、江波方に聞こえるか聞こえないかの声量で問う。
「普通、樒なんて庭に植えますかね」



