嘘つきと疫病神

 さんざん弱音を吐き、気がつけば二人は町を出て河川敷を歩いていた。
 鏡子に押し付けられた包の中には粧飾品と共に、何処かの屋敷への簡易的な地図が入れられていた。
 始めから紬に行かせるつもりだったのだろう。偶然江波方もその場に居合わせ、都合よく同行させられたわけである。

「あそこの橋を渡った先ね」

 地図を片手に紬は川に架かる重厚な作りの橋を指差す。見れば木々の間から建物の屋根が覗いていた。
 かれこれ一時間近く歩いている。無理矢理遠出させられたため、包以外は何も持っていない手ぶらの状況であった。
 すでに上がっている息を押し殺しながら橋まで向かい、一瞬顔を見合わせた二人は石造りの橋に踏み入る。
 橋を渡れば、すぐ目の前にその屋敷はあった。

「ここですか……」 

 町から離れた場所にあるこの屋敷は、想像していたよりもずっと小さく、そして寂れていた。
 決して朽ちているというわけではなく、しっかりと手入れされた庭はなんとも美しい。
 では、どうして寂れていると感じるのか。

「誰もいないみたい」
「何と言うか……人が生活している気配を感じられないですねぇ」

 江波方の呟きに、紬は背筋に冷たいものが走る感覚を覚えた。ぐるぐると頭の中を良からぬことが駆け巡る。
 それらの考えを振り払うように頭を振り、一つ息を吸うと屋敷の敷地内へと足を踏み入れた。

「ごめんください」

 引き戸を何度か叩き、中に誰かしらいることを願いながら声を掛ける。
 少しすると奥から物音が聞こえ、近づく足音を待つと引き戸の向こう側に人の影が見えた。
 ゆっくりと引き戸を開け、顔を出したのは初老の穏やかな風貌をした女性である。

「どちら様?」
「茶屋柳凪の者です。店主からこちらを預かっておりまして」

 鏡子から預かった、正しくは強引に押し付けられた包を女性に差し出す。
 女性は一瞬驚いた様子を見せつつも、穏やかな雰囲気は崩さず包に手を伸ばした。
 ひらりと包みを開け、その中身に目を落とす。鮮やかな粧飾が施された髪飾りや櫛は、何度見ても惹かれるものがある。

「あらあら、ふふ。あの子ったらこんなものを残していたなんて……。こんな遠いところまでわざわざ来ていただいてお疲れでしょう、上がってくださいな」
「い、いえ、こちらをお届けに来ただけですので、私達はこれで……」
「まあ、そう言わずに。私は貴方達と話したいことがあるのよ。少しだけ、お時間をくださらない?」

 視線で江波方に助けを求めると、彼はぎこちなく笑みを浮かべて頷いた。
 軍帽を取り女性に向き直ったところを見ると、女性の誘いに乗る気なのだろう。断る理由がないからこそ、帰りたいというのが本音なのだが。

「では、お言葉に甘えて」

 結局女性の勢いと、江波方のどうしようもなさそうな表情に背中を叩かれ、屋敷に上がることになった。
 しかし、先程からの女性の言い回しがどうも気になる。包の中身を見て懐かしそうな表情を浮かべたり、「あの子」という存在が誰なのかが気になるのだ。
 感じた違和感を振り払うため、そう自分に言い聞かせ女性の背中を追って屋敷内を進んだ。