自分のせいではないと二人ならば言ってくれる。そう信じていても、一度感じた恐怖が徐々に身体を蝕んでいく。
何も言わない二人ではなく、友里恵へと視線を移すと、彼女は静かにその場を離れ蕗の前に立ち塞がった。
「少し、二人だけにしておきましょう」
そう言って部屋へと連れて行かれたため、蕗はこの先の出来事を知ることは叶わないままである。
二人きりになった途端時間がゆっくりと流れ出す。互いに口を開くことはなく、目を合わせずただ押し黙るだけの時間が流れた。
ガラガラと重い引き戸を何者かが開く音が聞こえ、紬は鏡子から視線を外し振り返る。
「あっ、お二人だけですかぁ?」
「江波方さん……」
店に現れたのは意外にも江波方一人である。普段ならば仁武や芝と共に顔を出すのだが、この時は彼らの気配は感じられなかった。
ただならぬ雰囲気を感じ取ったらしい彼は、一瞬店に入ることを躊躇する。しかし鏡子が中に入るよう促し、江波方は素直に従った。
「お邪魔してしまいましたかね」
「いいえ、来ていただけて嬉しいわ。それにしても、今日は江波方さんお一人?」
「個人的な用で来たんです。用って言っても顔を出しに来ただけなんですけど」
そう言って乾いた笑みを落とす彼は、直接は語らずとも軍事基地から逃げ出してきたのだろう。
むさ苦しい漢が集まっている場では息が詰まると、時折語っているところを紬は耳にしていた。最も、彼女だけにそういった弱音を吐いているからなのだが。
芝達を嫌っているわけでも避けているわけでもないようだが、普段から彼は何処か居心地の悪さを表情に浮かべていた。
彼のその様子に気がついている者は数少ないことだろう。
こうして一人で基地を抜け出し柳凪へとやって来たのは、紬と鏡子にはすでに勘づかれていると悟ったからである。
「それなら、今お時間あるかしら」
「え? ああ、まあ、あるにはありますが」
鏡子の突然の問に、江波方は不意を突かれた様子で彼女を見た。問うた本人は微かに笑みを浮かべている。
何か良からぬことを考えていると、この場では紬だけでなく江波方もすぐに察せた。
「二人にお願いがあるの」
紬が抱えていた包を指さしながら不敵な笑みを浮かべる。拒否することを許さないと言いたげな圧すら感じるほどだ。
「これをある人のところに届けてほしいのよ。できれば今日の内に、いいえ、今すぐにでも向かってほしい」
「え、今から? 急すぎるわよ。江波方さんだって今来たばかりなのに」
「ああ、俺は大丈夫ですよ。元々時間が合ってきたので、お手伝いします」
江波方の要領を得た返答に鏡子は満足げに笑ってみせた。紬が突き返していた包を強引に押し付け、くるりと彼女の身体を玄関口へと向ける。
「ちょ、ちょっと!」
「いいから、黙って行きなさい」
すっかり鏡子に流された紬は渋々包みを抱え直し、引き戸を開けて外へと一歩踏み出した。
納得していないらしい様子で出ていく彼女を尻目に、鏡子は江波方へと向き直る。
「それでは、よろしくお願いします」
この時、江波方は何故彼女が自分に頭を下げるのか知る由もなかった。
何も言わない二人ではなく、友里恵へと視線を移すと、彼女は静かにその場を離れ蕗の前に立ち塞がった。
「少し、二人だけにしておきましょう」
そう言って部屋へと連れて行かれたため、蕗はこの先の出来事を知ることは叶わないままである。
二人きりになった途端時間がゆっくりと流れ出す。互いに口を開くことはなく、目を合わせずただ押し黙るだけの時間が流れた。
ガラガラと重い引き戸を何者かが開く音が聞こえ、紬は鏡子から視線を外し振り返る。
「あっ、お二人だけですかぁ?」
「江波方さん……」
店に現れたのは意外にも江波方一人である。普段ならば仁武や芝と共に顔を出すのだが、この時は彼らの気配は感じられなかった。
ただならぬ雰囲気を感じ取ったらしい彼は、一瞬店に入ることを躊躇する。しかし鏡子が中に入るよう促し、江波方は素直に従った。
「お邪魔してしまいましたかね」
「いいえ、来ていただけて嬉しいわ。それにしても、今日は江波方さんお一人?」
「個人的な用で来たんです。用って言っても顔を出しに来ただけなんですけど」
そう言って乾いた笑みを落とす彼は、直接は語らずとも軍事基地から逃げ出してきたのだろう。
むさ苦しい漢が集まっている場では息が詰まると、時折語っているところを紬は耳にしていた。最も、彼女だけにそういった弱音を吐いているからなのだが。
芝達を嫌っているわけでも避けているわけでもないようだが、普段から彼は何処か居心地の悪さを表情に浮かべていた。
彼のその様子に気がついている者は数少ないことだろう。
こうして一人で基地を抜け出し柳凪へとやって来たのは、紬と鏡子にはすでに勘づかれていると悟ったからである。
「それなら、今お時間あるかしら」
「え? ああ、まあ、あるにはありますが」
鏡子の突然の問に、江波方は不意を突かれた様子で彼女を見た。問うた本人は微かに笑みを浮かべている。
何か良からぬことを考えていると、この場では紬だけでなく江波方もすぐに察せた。
「二人にお願いがあるの」
紬が抱えていた包を指さしながら不敵な笑みを浮かべる。拒否することを許さないと言いたげな圧すら感じるほどだ。
「これをある人のところに届けてほしいのよ。できれば今日の内に、いいえ、今すぐにでも向かってほしい」
「え、今から? 急すぎるわよ。江波方さんだって今来たばかりなのに」
「ああ、俺は大丈夫ですよ。元々時間が合ってきたので、お手伝いします」
江波方の要領を得た返答に鏡子は満足げに笑ってみせた。紬が突き返していた包を強引に押し付け、くるりと彼女の身体を玄関口へと向ける。
「ちょ、ちょっと!」
「いいから、黙って行きなさい」
すっかり鏡子に流された紬は渋々包みを抱え直し、引き戸を開けて外へと一歩踏み出した。
納得していないらしい様子で出ていく彼女を尻目に、鏡子は江波方へと向き直る。
「それでは、よろしくお願いします」
この時、江波方は何故彼女が自分に頭を下げるのか知る由もなかった。



