嘘つきと疫病神

 運悪く、その日は先客がいた。丘の麓から頂上を見上げると、ぼんやりと曇天を見上げる少女がいたのだ。
 自分と同い年くらいだろうか。ボロボロの布切れと変わらない服を身に着け、黒髪の癖っ毛を乱雑に風に靡かせていた。
 いつもなら先客がいることなど無いし、いたとしたら別の場所を探すなりしたことだろう。
 それなのに、俺はその女の子と目が合うと目が離せなくなってしまった。
 よくある少女漫画のような展開が始まるわけでもなく、俺はその女の子に対して恐怖心を抱いたのだ。

「……誰」

 丘を登る途中で足を止めた俺のことを女の子は不審者を見る目で見つめる。
 無理もない。初対面なのにじっと見つめられて、その相手が男子であるのだから警戒するのは本能的なことだ。

「お前こそ誰だよ」

 自分しか知らない、自分だけの秘密基地だと思っていたのに。先客がいたからか、やけに荒々しい言い方になってしまった。
 後々になって気がつき言い直そうとするが、女の子は特に気にした様子はない。幼くも大人びた表情に光のない目。その目を静かに俺へと向けたまま、女の子は静かに佇んでいた。

「私は」

 風、葉擦れの音、鳥の鳴き声、呼吸音。自然が織り成す音を遮るように、女の子は口を開く。

「私は、疫病神。私のせいで人が死ぬの」

 心臓を鋭い刃物で貫かれたような衝撃が体を襲う。
 俺の人生は、この疫病神に出会ってしまったから狂ってしまったんだ。
 きっと、こいつのせいで。