変わってしまった時間が名残惜しい。どれだけ自分の想いを伝えようと奮闘しても、彼の中の想いが固く形作られている限り変えることはできないのだ。
蕗にとっての写真館は、第二の人生を歩んだ家。
たった数日という時間を過ごしただけでも、忘れられない思い出があの家には詰まっているのだ。
けれど時間が過ぎ去ると共に、その思い出の家に帰られなくなってしまった。蕗も仁武も、写真館の人間ではないからだ。
「俺が軍に入ったのはさ」
張り詰めた白銀の世界に仁武の声が木霊する。
声に呼応して仁武を見ると、彼は真っ直ぐと前を見据えていた。その揺るぎない真っ直ぐとした目に蕗は映っていない。
「弱い自分を変えたかったからなんだ。皆みたいにお国を守るためっていうのも、もちろん理由ではある。でも、それよりも守りたいものがあるんだ」
麓に広がる白銀の世界を真っ直ぐと目に映しながら、己の決意を口にする。
「変わらないように、自分が綺麗だと思った頃のままでいてもらえるように、ずっとそれだけを願って突っ走ってきた。今思えば、人間なんだから変わるのは当たり前なのにね」
「変わらない人なんていない。皆大人になるし、いつかは子供じゃなくなる。でもそれって、生きていくうえで何よりも幸せなことなんじゃないかな」
「大人になることが、幸せ……?」
出会ったばかりの頃はほとんど変わりなかった身長が、今では見上げるので精一杯なほどに差がついた。
声変わりで声が低くはっきりとしたものに変わって、彼の身体を大人へと近づけていた。
華奢で傷だらけだった身体は、分厚い衣類からも分かるほどに屈強な体つきになっていた。
彼もまた、大人への道を歩んでいるのだ。
「生き続けないと大人にはなれないでしょ。諦めずに生きてきたから、私達はまた会えた」
目の前にひらりと粉雪が舞い落ちる。
しんしんと降り続ける粉雪によって、辺りは真っ白な色のない世界に移り変わっていた。
場違いなほどに鮮やかな衣服を身に纏った仁武が、そんな色のない白銀の世界に浮いて見える。
手を伸ばし赤く火照った頬に触れれば、掌に彼の温もりが広がる。凍える寒さの中、その温もりが心地よい。
「はは、冷たい」
「仁武は温かいね」
目の前にある存在を確かめるように指先で頬を撫でる。
その度に見せる小っ恥ずかしげな表情が愛おしく、揶揄うように何度も頬を撫でた。
「仁武はいつかいなくなっちゃうんだね」
「え……?」
彼が身に纏っている見慣れない衣服は軍服である。深く被り、表情を隠しているのは軍帽。
近い未来、お国のためと謳って旅立つ軍人なのだ。
「どうして、また何処かに行こうとするの……」
仁武にすら届かない嘆きが口をついて出る。
仕方がないこと、もう決まったことなのだから自分が何かできることではない。
それでも、お国のために戦うのは彼である必要はないと思ってしまう。やっと再会できたのだから、これからは穏やかに暮らしていったって良いはずなのに。
「俺は、何処にも行かないよ」
蕗にとっての写真館は、第二の人生を歩んだ家。
たった数日という時間を過ごしただけでも、忘れられない思い出があの家には詰まっているのだ。
けれど時間が過ぎ去ると共に、その思い出の家に帰られなくなってしまった。蕗も仁武も、写真館の人間ではないからだ。
「俺が軍に入ったのはさ」
張り詰めた白銀の世界に仁武の声が木霊する。
声に呼応して仁武を見ると、彼は真っ直ぐと前を見据えていた。その揺るぎない真っ直ぐとした目に蕗は映っていない。
「弱い自分を変えたかったからなんだ。皆みたいにお国を守るためっていうのも、もちろん理由ではある。でも、それよりも守りたいものがあるんだ」
麓に広がる白銀の世界を真っ直ぐと目に映しながら、己の決意を口にする。
「変わらないように、自分が綺麗だと思った頃のままでいてもらえるように、ずっとそれだけを願って突っ走ってきた。今思えば、人間なんだから変わるのは当たり前なのにね」
「変わらない人なんていない。皆大人になるし、いつかは子供じゃなくなる。でもそれって、生きていくうえで何よりも幸せなことなんじゃないかな」
「大人になることが、幸せ……?」
出会ったばかりの頃はほとんど変わりなかった身長が、今では見上げるので精一杯なほどに差がついた。
声変わりで声が低くはっきりとしたものに変わって、彼の身体を大人へと近づけていた。
華奢で傷だらけだった身体は、分厚い衣類からも分かるほどに屈強な体つきになっていた。
彼もまた、大人への道を歩んでいるのだ。
「生き続けないと大人にはなれないでしょ。諦めずに生きてきたから、私達はまた会えた」
目の前にひらりと粉雪が舞い落ちる。
しんしんと降り続ける粉雪によって、辺りは真っ白な色のない世界に移り変わっていた。
場違いなほどに鮮やかな衣服を身に纏った仁武が、そんな色のない白銀の世界に浮いて見える。
手を伸ばし赤く火照った頬に触れれば、掌に彼の温もりが広がる。凍える寒さの中、その温もりが心地よい。
「はは、冷たい」
「仁武は温かいね」
目の前にある存在を確かめるように指先で頬を撫でる。
その度に見せる小っ恥ずかしげな表情が愛おしく、揶揄うように何度も頬を撫でた。
「仁武はいつかいなくなっちゃうんだね」
「え……?」
彼が身に纏っている見慣れない衣服は軍服である。深く被り、表情を隠しているのは軍帽。
近い未来、お国のためと謳って旅立つ軍人なのだ。
「どうして、また何処かに行こうとするの……」
仁武にすら届かない嘆きが口をついて出る。
仕方がないこと、もう決まったことなのだから自分が何かできることではない。
それでも、お国のために戦うのは彼である必要はないと思ってしまう。やっと再会できたのだから、これからは穏やかに暮らしていったって良いはずなのに。
「俺は、何処にも行かないよ」



