爽やかな風が頬を撫でて通り過ぎていく。懐かしい匂いが鼻腔を掠め、辺りには子供達の騒がしい声が響いていた。
駅を出ると記憶の中よりも綺麗な町並みが広がっている。昔は八百屋程度しか無かった商店街に、今は精肉店や書店など目新しい店が増えていた。
自分が成長したように、この町も時間と共に変化しているらしい。
忙しなく流れる時間に抗うようにゆっくりと町の中を歩く。少しでも辺り一面に広がる景色を目に焼き付けようと、時々立ち止まって見渡した。
記憶の中とは少し変わっているが、大好きだった故郷のままである。
ふと立ち止まって町を眺めることに集中していると、そんな仁武の足元を子供が通り過ぎていった。三人で追い駆けっこをしているらしい子供達は楽しげに笑っている。
(懐かしいな……)
微笑ましい光景を見て自然と笑みが零れる。自分にもあんな時期があったのかと思うと、何だか無性に寂しいと感じた。
寂しいけれどそれもまた成長だと考えれば割り切れられる。
キャッキャッと声を上げて走り回る子供達は微笑ましいが何とも危なっかしい。案の定、先を走っていた男の子が足元の小石に気が付かず盛大に転んだ。
思わず飛び出しそうになったが、仁武が動き出すよりも先に地面に伏せる男の子と遊んでいた子供達が駆けつけた。
一人がすぐ傍に屈んで彼の膝に着いた泥を手で払う。そしてもう一人は手を差し伸べていた。
友情とやらが目の前に広がっている。一瞬羨ましいと思ったが、そのすぐ後にあの暑い日の光景が脳裏に蘇った。
ガシャン!
「誰か! 誰か来て!」
自分はあの日、視界の先にいる子供達のように手を差し伸べることができなかった。
助けようとしなかった。見ず知らずのあの少女のように助けを呼ぼうとしなかった。
まるであの日のことを責められている気がして子供達から目を逸らす。自分は逃げてばかりだ。責められて当たり前のことをしたというのに、責められたくないからと目を逸らして逃げるのだ。
「最低だ……」
子供達に背を向けてその場から歩き出す。歩幅も速さも全て子供の頃から変わってしまった。
視界に写る爪先がやけに大きく見えて、心だけを置いて身体が勝手に成長してしまったようである。心が子供のままと言うより、子供の頃に今も縛られている。
自分は成長などしていない。身体だけが大きくなった子供に過ぎないらしいのだ。
やはり帰ってこないほうが良かったのだろうか。そう思うほどに、この街で過ごした日々は辛い思い出として脳裏に蔓延っている。
駅を出ると記憶の中よりも綺麗な町並みが広がっている。昔は八百屋程度しか無かった商店街に、今は精肉店や書店など目新しい店が増えていた。
自分が成長したように、この町も時間と共に変化しているらしい。
忙しなく流れる時間に抗うようにゆっくりと町の中を歩く。少しでも辺り一面に広がる景色を目に焼き付けようと、時々立ち止まって見渡した。
記憶の中とは少し変わっているが、大好きだった故郷のままである。
ふと立ち止まって町を眺めることに集中していると、そんな仁武の足元を子供が通り過ぎていった。三人で追い駆けっこをしているらしい子供達は楽しげに笑っている。
(懐かしいな……)
微笑ましい光景を見て自然と笑みが零れる。自分にもあんな時期があったのかと思うと、何だか無性に寂しいと感じた。
寂しいけれどそれもまた成長だと考えれば割り切れられる。
キャッキャッと声を上げて走り回る子供達は微笑ましいが何とも危なっかしい。案の定、先を走っていた男の子が足元の小石に気が付かず盛大に転んだ。
思わず飛び出しそうになったが、仁武が動き出すよりも先に地面に伏せる男の子と遊んでいた子供達が駆けつけた。
一人がすぐ傍に屈んで彼の膝に着いた泥を手で払う。そしてもう一人は手を差し伸べていた。
友情とやらが目の前に広がっている。一瞬羨ましいと思ったが、そのすぐ後にあの暑い日の光景が脳裏に蘇った。
ガシャン!
「誰か! 誰か来て!」
自分はあの日、視界の先にいる子供達のように手を差し伸べることができなかった。
助けようとしなかった。見ず知らずのあの少女のように助けを呼ぼうとしなかった。
まるであの日のことを責められている気がして子供達から目を逸らす。自分は逃げてばかりだ。責められて当たり前のことをしたというのに、責められたくないからと目を逸らして逃げるのだ。
「最低だ……」
子供達に背を向けてその場から歩き出す。歩幅も速さも全て子供の頃から変わってしまった。
視界に写る爪先がやけに大きく見えて、心だけを置いて身体が勝手に成長してしまったようである。心が子供のままと言うより、子供の頃に今も縛られている。
自分は成長などしていない。身体だけが大きくなった子供に過ぎないらしいのだ。
やはり帰ってこないほうが良かったのだろうか。そう思うほどに、この街で過ごした日々は辛い思い出として脳裏に蔓延っている。



