誰にも見られる心配がないからこそ、止め処無く溢れてくる。
「これでやっと、安心できるよ……」
一緒にいた時間は、恐らく二週間もなかった。出会って間もなく共に暮らすこととなり、当たり前にあった孤独な時間から救い上げられた。
ただ共に食卓を囲んで笑い合う。自分達が幼かったからこそ、それが幸せなのだと本気で信じていた。
しかし、実際は目の前にある現実に酔いしれていただけで、本当は幸せでも何でも無かったのかもしれない。
祖母が死んだ時、亡くなったことに対してではなく自分のせいで死んでしまったのだと罪悪感に襲われて涙を流した。食事と寝床を与えてくれた人が亡くなったというのに、自分は悲しみで涙を流さなかった。それがどれだけ薄情なことで、仁武にとって屈辱的なことだったか今になってようやく理解する。
仁武が両親の元に帰ることになり、悲しげな背中が遠退いて行く時も、自分は何処か安心していた。自分と共にいれば彼は不幸になってしまう。だから親の元で暮らすことは彼にとっての幸せなのだと。
自分は疫病神なのだ。噂でも何でもない、生まれながらにそうであった。
始まりは、庭を飛んでいた真っ白の紋白蝶に触れた時のこと。縁側に座っていると紋白蝶が指先に止まった。その姿が可愛らしくて羽に触れてみると、突然白い羽が崩れ落ちたのだ。自分が触れた途端に蝶が死んでしまった。その時の衝撃は今でも覚えている。
端から見ればただの偶然に過ぎないこと。しかしその出来事があったからこそ、人生があらぬ方向へ進んでいったと言ってもいい。
その次は近所で飼われていた犬を撫でた時。確か焦げ茶色の小さな柴犬だった気がする。ふわふわの毛並みを撫でながら飼い主に話を聞けば、まだ一歳になりたての子犬だったのだと言う。
自分を見上げるつぶらな瞳はとても気持ちよさそうで、当時の自分であれば素直に可愛いと思えたことだろう。もう想像つくことだが、その柴犬もまた翌日に死んでしまった。家の前で泣き崩れる飼い主を見て、蕗のせいで死んでしまったのだと誰かが囁く。
違う、自分のせいではない。全て偶然が重なっているだけで、自分の運が悪かっただけ。そう言いたいのに、言った所で誰も聞く耳を持たない。それが現実であった。無慈悲で、残酷な現実。
共に暮らしていた祖母が死に、後を追うように祖父も他界。たった一日の内に二人の家族を失った父は、蕗のせいで死んだのだと怒り狂った。思えば、父が言い出したのが疫病神と噂されることのきっかけだった気がする。
気が狂った父は病で床に伏せる母親と蕗を置いて家を出て、その数日後に事故に遭って死んでしまったらしい。最低で下劣で自分勝手な父親だったのに、母親はそんな父親を愛していた。だから愛する者が死んでしまったのは我が子のせいだと思い込み、蕗に手を上げた。
痛いはずなのに、辛いはずなのに、苦しいはずなのに。自分はそれらを受け入れた。
自分を痛めつけて母親が満足するのならそれで良かった。いつかこの苦しい日々から開放される。そう信じて我慢し続けた。
その結果、母親は病に侵されて次第に衰弱していき、最後には苦しみ藻掻いて死んでいった。
「これでやっと、安心できるよ……」
一緒にいた時間は、恐らく二週間もなかった。出会って間もなく共に暮らすこととなり、当たり前にあった孤独な時間から救い上げられた。
ただ共に食卓を囲んで笑い合う。自分達が幼かったからこそ、それが幸せなのだと本気で信じていた。
しかし、実際は目の前にある現実に酔いしれていただけで、本当は幸せでも何でも無かったのかもしれない。
祖母が死んだ時、亡くなったことに対してではなく自分のせいで死んでしまったのだと罪悪感に襲われて涙を流した。食事と寝床を与えてくれた人が亡くなったというのに、自分は悲しみで涙を流さなかった。それがどれだけ薄情なことで、仁武にとって屈辱的なことだったか今になってようやく理解する。
仁武が両親の元に帰ることになり、悲しげな背中が遠退いて行く時も、自分は何処か安心していた。自分と共にいれば彼は不幸になってしまう。だから親の元で暮らすことは彼にとっての幸せなのだと。
自分は疫病神なのだ。噂でも何でもない、生まれながらにそうであった。
始まりは、庭を飛んでいた真っ白の紋白蝶に触れた時のこと。縁側に座っていると紋白蝶が指先に止まった。その姿が可愛らしくて羽に触れてみると、突然白い羽が崩れ落ちたのだ。自分が触れた途端に蝶が死んでしまった。その時の衝撃は今でも覚えている。
端から見ればただの偶然に過ぎないこと。しかしその出来事があったからこそ、人生があらぬ方向へ進んでいったと言ってもいい。
その次は近所で飼われていた犬を撫でた時。確か焦げ茶色の小さな柴犬だった気がする。ふわふわの毛並みを撫でながら飼い主に話を聞けば、まだ一歳になりたての子犬だったのだと言う。
自分を見上げるつぶらな瞳はとても気持ちよさそうで、当時の自分であれば素直に可愛いと思えたことだろう。もう想像つくことだが、その柴犬もまた翌日に死んでしまった。家の前で泣き崩れる飼い主を見て、蕗のせいで死んでしまったのだと誰かが囁く。
違う、自分のせいではない。全て偶然が重なっているだけで、自分の運が悪かっただけ。そう言いたいのに、言った所で誰も聞く耳を持たない。それが現実であった。無慈悲で、残酷な現実。
共に暮らしていた祖母が死に、後を追うように祖父も他界。たった一日の内に二人の家族を失った父は、蕗のせいで死んだのだと怒り狂った。思えば、父が言い出したのが疫病神と噂されることのきっかけだった気がする。
気が狂った父は病で床に伏せる母親と蕗を置いて家を出て、その数日後に事故に遭って死んでしまったらしい。最低で下劣で自分勝手な父親だったのに、母親はそんな父親を愛していた。だから愛する者が死んでしまったのは我が子のせいだと思い込み、蕗に手を上げた。
痛いはずなのに、辛いはずなのに、苦しいはずなのに。自分はそれらを受け入れた。
自分を痛めつけて母親が満足するのならそれで良かった。いつかこの苦しい日々から開放される。そう信じて我慢し続けた。
その結果、母親は病に侵されて次第に衰弱していき、最後には苦しみ藻掻いて死んでいった。



