何もできない自分に嫌気が差して、母親から目を逸らして俯いた。自分はあの時どうすればよかったのだろう。
祖母が死んだ時、嫌な予感はしていた。祖母と二人暮らしだったため他に頼れるような相手はおらず、もしかしたら誰かが迎えに来るのではないかと。
まさかその予想が現実になるなど思いもしなかったが、こうして目の前に半ば夢話しの中の存在だと思っていた両親がいる。
もっと早く迎えに来てくれていれば、自分のことを見捨てたわけではないのだと思えたのに。
両親の傲慢な一面を見ること無く、再会を喜び合えたかもしれないのに。
自分を迎えに来た時の両親の優しい笑顔も、言葉も、全て演技だったのだろうか。自分を上手く連れ帰るための台本に従ったに過ぎないのだろうか。
両親は何を思って自分を迎えに来たのだ。何故今になって迎えに来る必要があったのだ。
「なんで、なんで今更迎えに来たんだよ」
母親の表情に再び怒りの色が滲む。腕を掴んで動きを封じていた父親もまた微かに身体を震わせた。
やめておけ。また痛い目に遭うぞ。次は父親が拳を振るってくるかもしれない。一発どころでは収まらず、二発、三発と殴られるかもしれないぞ。
今ならまだ間に合うから、「生意気なことを言ってごめんなさい」って言うんだ。
頭の中で誰かが囁いている。自分の本能と本心は謝って逃げろと言っているらしい。確かに今なら謝って許してもらえることだろう。そのまま新しく暮らす街に行くまで他愛もない話に花を咲かせるんだ。
けれど、とっくに堪忍袋の緒が切れていた。もう我慢できない、一度地獄に足を踏み入れたのだから突き進むしかないのだ。
「俺をばあちゃんに預けてから今まで、あんたらは何処で何をしていた? 仕事ばかりして俺のことを考える隙なんてなかったんだろ。ばあちゃんと物心つくときから暮らしていて、親のことなんか何も知らない俺のことを気にした時間が少しでもあったか? あったならどれくらい想ってくれた?」
隣の座席に座っていた家族連れが、只事ではないと察したようで別の車両へと移っていく。
他の座席から覗き込むように乗客が自分達のことを見ている。完全におかしな家族だと思われていることだろう。
しかし一度鬱憤を吐き出せば、そこからは歯止めが効かなくなる。次から次へと怒りが込み上げてきて、気がつけば恐れなど感じず、両親を睨みつけていた。
「俺の親だって言うならさ、なんで今になって迎えに来たんだよ。やっと俺は自分の幸せが何なのか分かったのに」
握りしめた拳が打ち震える。父親が動き出した。立ち上がった父親は、天井に頭がつきそうなほどの身長を持っている。
視界いっぱいに父親のスーツが埋め尽くして、やけに小洒落た香水の匂いが鼻腔を擽った。
「幸せ……? お前は誰のおかげで生きてこられたと思っているんだ」
突然胸ぐらを掴まれて、ぐっと父親の顔が近づく。真っ直ぐと向けられる目を見つめると、まるで吸い込まれそうになる錯覚に陥った。
祖母が死んだ時、嫌な予感はしていた。祖母と二人暮らしだったため他に頼れるような相手はおらず、もしかしたら誰かが迎えに来るのではないかと。
まさかその予想が現実になるなど思いもしなかったが、こうして目の前に半ば夢話しの中の存在だと思っていた両親がいる。
もっと早く迎えに来てくれていれば、自分のことを見捨てたわけではないのだと思えたのに。
両親の傲慢な一面を見ること無く、再会を喜び合えたかもしれないのに。
自分を迎えに来た時の両親の優しい笑顔も、言葉も、全て演技だったのだろうか。自分を上手く連れ帰るための台本に従ったに過ぎないのだろうか。
両親は何を思って自分を迎えに来たのだ。何故今になって迎えに来る必要があったのだ。
「なんで、なんで今更迎えに来たんだよ」
母親の表情に再び怒りの色が滲む。腕を掴んで動きを封じていた父親もまた微かに身体を震わせた。
やめておけ。また痛い目に遭うぞ。次は父親が拳を振るってくるかもしれない。一発どころでは収まらず、二発、三発と殴られるかもしれないぞ。
今ならまだ間に合うから、「生意気なことを言ってごめんなさい」って言うんだ。
頭の中で誰かが囁いている。自分の本能と本心は謝って逃げろと言っているらしい。確かに今なら謝って許してもらえることだろう。そのまま新しく暮らす街に行くまで他愛もない話に花を咲かせるんだ。
けれど、とっくに堪忍袋の緒が切れていた。もう我慢できない、一度地獄に足を踏み入れたのだから突き進むしかないのだ。
「俺をばあちゃんに預けてから今まで、あんたらは何処で何をしていた? 仕事ばかりして俺のことを考える隙なんてなかったんだろ。ばあちゃんと物心つくときから暮らしていて、親のことなんか何も知らない俺のことを気にした時間が少しでもあったか? あったならどれくらい想ってくれた?」
隣の座席に座っていた家族連れが、只事ではないと察したようで別の車両へと移っていく。
他の座席から覗き込むように乗客が自分達のことを見ている。完全におかしな家族だと思われていることだろう。
しかし一度鬱憤を吐き出せば、そこからは歯止めが効かなくなる。次から次へと怒りが込み上げてきて、気がつけば恐れなど感じず、両親を睨みつけていた。
「俺の親だって言うならさ、なんで今になって迎えに来たんだよ。やっと俺は自分の幸せが何なのか分かったのに」
握りしめた拳が打ち震える。父親が動き出した。立ち上がった父親は、天井に頭がつきそうなほどの身長を持っている。
視界いっぱいに父親のスーツが埋め尽くして、やけに小洒落た香水の匂いが鼻腔を擽った。
「幸せ……? お前は誰のおかげで生きてこられたと思っているんだ」
突然胸ぐらを掴まれて、ぐっと父親の顔が近づく。真っ直ぐと向けられる目を見つめると、まるで吸い込まれそうになる錯覚に陥った。



