蒸気機関車の客席に座って揺られながら考えるのはそんなことばかりだ。窓の外を見れば、全く知らない町並みが続く。
少しづつ、少しづつ故郷を離れてしまうのと同時に祖母と暮らした日々が遠退いていくようだ。いつかは終わってしまうと知っていても、いざその終わりが訪れてしまうと受け入れられない。
我が儘な後悔ばかりが募って、けれど吐き出す場所など何処にもなくて、不快な蟠りとなって心の奥深くに居座っている。
窓の外には長閑な田んぼが広がる田舎町と、それらを見下ろす曇天が広がっている。灰色の空から水滴がぽつぽつと溢れてきて、車窓にぶつかっては弾けた。
あっという間に外は大雨に包まれて、霧に埋もれた町は車窓から眺めることができなくなってしまう。
「仁武」
「……何」
折角、窓の外を眺めることによって気分が落ち着いてきたというのに。父親の重々しい声で名前を呼ばれて、渋々窓から目を離す。
父親に向き直ると、光のない泥のような死んだ目を向けて父親は口を開く。
「お前の後ろにいたあの女の子は、一体誰だ?」
名前を聞かなくとも、父親が誰のことを問うているのかは分かる。当然両親が蕗のことを知っているはずもない。
二人からしたら、我が子の背後で泣きじゃくる少女がいるなど、異様な光景だったことだろう。
父親の問に答える気にならなくて、また逃げるように視線を窓に向けた。態度で答えたくないと表してみれば、父親は小さく溜息を吐いてそれ以上何も言わなくなる。
「もしかして、あの子と一緒に暮らしていたの?」
「えっ…………何で?」
どうして何も知らないはずの母親がそんなことを問うのだ。蕗と暮らしていたのはたった数日、特に噂になることもなくひっそりと暮らしていたはずだ。
正体が何なのか分からない違和感がふつふつと湧き上がる。真っ白に曇った窓を眺めて考えを巡らせようと、その正体が見つからない。
遠くの街で暮らしている両親は何も知らないのだ。何も知らないはずなのだ。
それなのに感じるこの違和感は一体────。
あ………。まさか。いや、そんなはずはない。
もしそうならば、あいつは自分を、蕗を裏切ることになる。
「あいつが、言ったのか? 父さんと母さんに、あいつが………」
窓に映る自分の表情が、毒虫を奥歯で噛み潰したように苦々しく歪み出す。
気のせいだ、自分の考えすぎだ。そう思いたいのに、一度浮かんだ考えが脳裏に蔓延って消えてくれない。
口をついて出た呟きは両親にも聞こえていたようで、父親は怪訝な表情を浮かべて顔を上げた。
「何か言ったか? やはりあの娘が何かしたのだな。だから付き合う相手は選べと何度も」
「違う!」
気がつけば声を荒げて父親の言葉を遮っていた。親の言葉を遮って自我を出すことがどれだけ愚かなことなのか、分かっていないわけではない。
それでも我慢ならなかった。綺麗だと思った彼女を、ずっと傍にいたいと思った彼女を、守りたいと思った彼女を悪く言う父親の言葉が許せなかった。
少しづつ、少しづつ故郷を離れてしまうのと同時に祖母と暮らした日々が遠退いていくようだ。いつかは終わってしまうと知っていても、いざその終わりが訪れてしまうと受け入れられない。
我が儘な後悔ばかりが募って、けれど吐き出す場所など何処にもなくて、不快な蟠りとなって心の奥深くに居座っている。
窓の外には長閑な田んぼが広がる田舎町と、それらを見下ろす曇天が広がっている。灰色の空から水滴がぽつぽつと溢れてきて、車窓にぶつかっては弾けた。
あっという間に外は大雨に包まれて、霧に埋もれた町は車窓から眺めることができなくなってしまう。
「仁武」
「……何」
折角、窓の外を眺めることによって気分が落ち着いてきたというのに。父親の重々しい声で名前を呼ばれて、渋々窓から目を離す。
父親に向き直ると、光のない泥のような死んだ目を向けて父親は口を開く。
「お前の後ろにいたあの女の子は、一体誰だ?」
名前を聞かなくとも、父親が誰のことを問うているのかは分かる。当然両親が蕗のことを知っているはずもない。
二人からしたら、我が子の背後で泣きじゃくる少女がいるなど、異様な光景だったことだろう。
父親の問に答える気にならなくて、また逃げるように視線を窓に向けた。態度で答えたくないと表してみれば、父親は小さく溜息を吐いてそれ以上何も言わなくなる。
「もしかして、あの子と一緒に暮らしていたの?」
「えっ…………何で?」
どうして何も知らないはずの母親がそんなことを問うのだ。蕗と暮らしていたのはたった数日、特に噂になることもなくひっそりと暮らしていたはずだ。
正体が何なのか分からない違和感がふつふつと湧き上がる。真っ白に曇った窓を眺めて考えを巡らせようと、その正体が見つからない。
遠くの街で暮らしている両親は何も知らないのだ。何も知らないはずなのだ。
それなのに感じるこの違和感は一体────。
あ………。まさか。いや、そんなはずはない。
もしそうならば、あいつは自分を、蕗を裏切ることになる。
「あいつが、言ったのか? 父さんと母さんに、あいつが………」
窓に映る自分の表情が、毒虫を奥歯で噛み潰したように苦々しく歪み出す。
気のせいだ、自分の考えすぎだ。そう思いたいのに、一度浮かんだ考えが脳裏に蔓延って消えてくれない。
口をついて出た呟きは両親にも聞こえていたようで、父親は怪訝な表情を浮かべて顔を上げた。
「何か言ったか? やはりあの娘が何かしたのだな。だから付き合う相手は選べと何度も」
「違う!」
気がつけば声を荒げて父親の言葉を遮っていた。親の言葉を遮って自我を出すことがどれだけ愚かなことなのか、分かっていないわけではない。
それでも我慢ならなかった。綺麗だと思った彼女を、ずっと傍にいたいと思った彼女を、守りたいと思った彼女を悪く言う父親の言葉が許せなかった。



