嘘つきと疫病神

 それでも私達は出会ってしまった。誰かと共に過ごす時間の尊さを知ってしまった。だから、もう戻れなくなってしまった。
愚かな程に優しい貴方は、私に沢山の景色を見せてくれた。知らない世界を教えてくれた。
 灰色に染まって色を失った世界に、貴方が色を付けてくれた。

 だから、私はこんなにも美しい世界を目の当たりにすることができたんだ。

 全ては貴方のお陰。貴方が私の前に現れて、廃れた世界から救い出してくれたから見ることができたのだ。

 それなのに、それなのに。

 どうして貴方は「お国のために死にに征く」なんて言うの。
 命を賭してまで何かを守ろうとするの。
 命を失って、その先には何があるの。

 問うても問うても貴方は答えてくれない。だからその度に自分に問う。

 何故あの時に最後まで抗って、貴方を引き留めようとしなかったのか。

 私は貴方が旅立つ前に己の想いを伝えた。そのつもりだった。
 でも貴方には一言も伝わっていなかったみたい。貴方の申し訳無さそうに微笑む表情を見た瞬間、私は引き止めることを諦めてしまった。
 一緒に逃げ出せばよかったのにそうしなかった。

 貴方の決意に染まった表情を見ると、到底自分ではその決意を踏み躙るなんて真似ができなかったから。

 だから永遠の別れになることを受け入れてしまった。

 それでも、それでも好きだった。

 貴方が撮る写真の一枚一枚が。
 貴方が見せる様々な表情が。
 貴方が見せてくれる美しい世界が。
 貴方の人柄が。

 全部、全部好きだった。

 もう届かないこの想いは、報われること無く記憶の奥底に眠ってしまうらしい。