店内は様々な年齢層の客でごった返していた。甘味処であるはずなのに中年の男性客や子連れの夫婦、恋人らしき二人組がいたりと何とも騒がしい店である。
仁武が店の奥の方にある目立たない席に向って歩き出したため、その後を蕗も追った。
席につくと、店員らしき女性が二人の席に近づく。タレ目でお淑やかな雰囲気を醸し出す、長身の綺麗な女性だ。
「茶屋柳凪へようこそ」
優しくも凛とした声で言いながら、二人の前に湯呑みを置く。表面に結露が見られる湯呑みには、香り豊かなお茶が入っているようだ。
今は夏であり、こうして店内にいる間も熱さに身体が悲鳴を上げている。冷たい飲み物を清潔な状態で出してもらえるだけでも有り難い。冷たい湯呑みに手を伸ばし、そっと口をつけた。
「見慣れない子ね。仁武ちゃんのお友達?」
店員の女性は慣れた仕草で仁武の名前を呼んだ。下の名前にちゃん付けで呼ばれた仁武だが、気にした様子もなく湯呑みに口をつけている。
「まあ、そんな感じ」
「ふーん。仁武ちゃんにしては珍しいこともあったものね。随分と可愛らしい子だけれど、連れ回していて大丈夫なの?」
この女性店員が言っていることは真っ当だ。同じ年頃とは言え、何処の馬の骨とも分からない少女を知り合いが連れているのだから。
しかし仁武は対して話しを聞いていないようで、何処か呆けた様子である。
女性店員は諦めたのかそれとも始めから答えなど求めていなかったのか、仁武から視線を外すと蕗を見つめた。
睨みつけられている訳ではないはずなのに、その視線は警戒しているようである。居た堪れなくなってあわあわと目を泳がせていると、ふっと女性店員は笑い声を上げた。
「あらあらごめんなさい。怖がらせちゃったみたいね」
先程と打って変わって穏やかに微笑む女性店員は、お盆を胸の前で持ち蕗の傍に屈んだ。屈んでやっと同じくらいの視線になるのだから、立っていたとしてもその身長には敵わないだろう。
「お嬢さん、名前は?」
「時雨蕗です」
「蕗ちゃんっていうのね。私は鏡子、仁武ちゃんの古い知り合いなの」
古い知り合いとはどういうことだろうか。どれくらい前から二人は知り合っているのか、本当に知り合いというだけなのか。蕗の中で様々な懸念が渦を成す。
たとえ仁武が鏡子というこの女性にそういう感情を抱いていようと、蕗には何も関係がない。そのはずなのに、気がつけば嫉妬心に似た感情が心の奥深くを縛り上げた。
仁武が店の奥の方にある目立たない席に向って歩き出したため、その後を蕗も追った。
席につくと、店員らしき女性が二人の席に近づく。タレ目でお淑やかな雰囲気を醸し出す、長身の綺麗な女性だ。
「茶屋柳凪へようこそ」
優しくも凛とした声で言いながら、二人の前に湯呑みを置く。表面に結露が見られる湯呑みには、香り豊かなお茶が入っているようだ。
今は夏であり、こうして店内にいる間も熱さに身体が悲鳴を上げている。冷たい飲み物を清潔な状態で出してもらえるだけでも有り難い。冷たい湯呑みに手を伸ばし、そっと口をつけた。
「見慣れない子ね。仁武ちゃんのお友達?」
店員の女性は慣れた仕草で仁武の名前を呼んだ。下の名前にちゃん付けで呼ばれた仁武だが、気にした様子もなく湯呑みに口をつけている。
「まあ、そんな感じ」
「ふーん。仁武ちゃんにしては珍しいこともあったものね。随分と可愛らしい子だけれど、連れ回していて大丈夫なの?」
この女性店員が言っていることは真っ当だ。同じ年頃とは言え、何処の馬の骨とも分からない少女を知り合いが連れているのだから。
しかし仁武は対して話しを聞いていないようで、何処か呆けた様子である。
女性店員は諦めたのかそれとも始めから答えなど求めていなかったのか、仁武から視線を外すと蕗を見つめた。
睨みつけられている訳ではないはずなのに、その視線は警戒しているようである。居た堪れなくなってあわあわと目を泳がせていると、ふっと女性店員は笑い声を上げた。
「あらあらごめんなさい。怖がらせちゃったみたいね」
先程と打って変わって穏やかに微笑む女性店員は、お盆を胸の前で持ち蕗の傍に屈んだ。屈んでやっと同じくらいの視線になるのだから、立っていたとしてもその身長には敵わないだろう。
「お嬢さん、名前は?」
「時雨蕗です」
「蕗ちゃんっていうのね。私は鏡子、仁武ちゃんの古い知り合いなの」
古い知り合いとはどういうことだろうか。どれくらい前から二人は知り合っているのか、本当に知り合いというだけなのか。蕗の中で様々な懸念が渦を成す。
たとえ仁武が鏡子というこの女性にそういう感情を抱いていようと、蕗には何も関係がない。そのはずなのに、気がつけば嫉妬心に似た感情が心の奥深くを縛り上げた。



