沈んだ空気を打ち壊すことすら、今の彼女達には到底できなかった。流す涙も枯れ、飛び立つことを決意した芝に掛ける言葉もない。
再び席についた芝は、仁武達と他愛もない話で盛り上がり始めた。無理のある笑顔だが、今の彼に出来る精一杯の笑顔がそれなのだろう。誰も指摘せず、沈んだ空気の中に彼らの笑い声が響いていた。
「そろそろだな」
芝は時計を眺めながら遠い目をして言った。何か予定でもあるのか、仁武達に目配せをする。すると三人は立ち上がって玄関口へと歩いていく。その後ろを芝も続き、玄関口で仁武が立ち止まると芝達は先に出て行ってしまった。
もう行くのかと声を掛ける前に、振り返った仁武が口を開いた。
「さようなら」
それはもう二度と帰ってこないことを暗示していた言葉だったのかもしれない。立ち上がった蕗の返事を聞く前に、仁武は出て行ってしまった。追いかけようにも地に根が張ったように足が動かない。
言いたいことが、伝えたいことがあったはずなのに、その場から動き出すことができずにいた。
パタリと音を立てて閉まった扉を眺めて、一体どれほどの時間を突っ立っていたのだろう。背後で椅子を引く音がする。見れば微笑んだ紬は真っ直ぐと蕗を見ていた。
「まだ遅くない。今なら間に合うわ」
「そうよ。言いたいことがあるんでしょう? なら早く伝えに行かないと」
紬につられるようにして和加代も立ち上がった。彼らに伝えたいことがあるのは二人も同じはずなのに、それでも自分達が行こうとしないのはすでに諦めているからだろう。
生きて帰ってきてくれる、また同じ時を過ごせる。そんな淡い期待を持っている蕗と違って、二人はとうの昔に期待など捨ててきたのだ。
愛すべきではなかったと願いながらも愛してしまった覚悟を第一に守るために。
「分かった」
二人から視線を外し扉の前に立つと、小さく息を吸って手を掛けた。そのまま体重を掛けて押し開けると外へと飛び出した。
再び席についた芝は、仁武達と他愛もない話で盛り上がり始めた。無理のある笑顔だが、今の彼に出来る精一杯の笑顔がそれなのだろう。誰も指摘せず、沈んだ空気の中に彼らの笑い声が響いていた。
「そろそろだな」
芝は時計を眺めながら遠い目をして言った。何か予定でもあるのか、仁武達に目配せをする。すると三人は立ち上がって玄関口へと歩いていく。その後ろを芝も続き、玄関口で仁武が立ち止まると芝達は先に出て行ってしまった。
もう行くのかと声を掛ける前に、振り返った仁武が口を開いた。
「さようなら」
それはもう二度と帰ってこないことを暗示していた言葉だったのかもしれない。立ち上がった蕗の返事を聞く前に、仁武は出て行ってしまった。追いかけようにも地に根が張ったように足が動かない。
言いたいことが、伝えたいことがあったはずなのに、その場から動き出すことができずにいた。
パタリと音を立てて閉まった扉を眺めて、一体どれほどの時間を突っ立っていたのだろう。背後で椅子を引く音がする。見れば微笑んだ紬は真っ直ぐと蕗を見ていた。
「まだ遅くない。今なら間に合うわ」
「そうよ。言いたいことがあるんでしょう? なら早く伝えに行かないと」
紬につられるようにして和加代も立ち上がった。彼らに伝えたいことがあるのは二人も同じはずなのに、それでも自分達が行こうとしないのはすでに諦めているからだろう。
生きて帰ってきてくれる、また同じ時を過ごせる。そんな淡い期待を持っている蕗と違って、二人はとうの昔に期待など捨ててきたのだ。
愛すべきではなかったと願いながらも愛してしまった覚悟を第一に守るために。
「分かった」
二人から視線を外し扉の前に立つと、小さく息を吸って手を掛けた。そのまま体重を掛けて押し開けると外へと飛び出した。



