振り返り、微笑みながら見つめ返せば、微かに涙で潤んだ瞳の奥が揺れ動いた。
目の奥が熱くなり気を抜けば自分も泣いてしまいそうだった。けれど今は泣けない。泣いてはいけない。
今にも泣き出しそうになるのを必死に我慢して、自分ができる精一杯のぎこちない笑顔を浮かべてみる。我ながら情けない顔をしていると思った。それでも彼女が少しでも安心できるように笑う。誰も咎めることはない。止めてはくれなかった。
後悔だけが押し寄せてくる。蕗がもう泣かなくて済むように、笑って暮らせるようになってほしいと願ったから軍に入ったはずなのに。
十年後しに再会してから今まで彼女を泣かせてばかりだった。
再会したあの日、もう泣かないでと言えたのに。蕗が涙を流すのは自分のせいだと責め続けた。
「なんて狂った世界なんだろうな」
仁武の諦めたような、全てに絶望したような言葉が蕗の心の奥深くを突き刺す。その一言で蕗の中にあった何かがバラバラに崩れ落ちた。
絶望。もう何もかもが無駄で、どうしようもないのだと知らしめられる。けれど絶望と共に、安心感もあった。
仁武の中にも戦争に反対的な思いがあったのだ。軍人である彼が誰よりも責任感に苦しめられている。そのうえで彼は戦争に反抗していると取れる言葉を口にした。
非国民だと嘲笑われると理解した上でそう口にしたのだ。
「俺は、死にたくない。やり残したことがたくさんあるんだ。したいことが、してやりたいことが、たっくさんある」
今度は首だけではなく、身体全体で蕗に向き直った。仁武の表情は覚悟と決意に引き締まっている。絶対に揺るがない決意。
しかし、そんな決意にも不安や迷いなどといった本心は見え隠れする。
隠し事が苦手な仁武はどれだけ成長しても不器用で隠し事が苦手なままであった。
「確かに、やり残したことがたくさんありますね」
「小瀧……さん………」
小瀧の呟きを聞いた和加代は、傍に立って目を伏せている小瀧を見上げる。軍帽で影が掛かった顔は泣いているようにも笑っているようにも見える。
「もっとたくさんのことを伝えるべきでした。もう、手遅れでしょうが」
「まだ間に合うんじゃ、今ならきっと……」
「いいえ、もうどうしようもないんです」
和加代の言葉を遮るように、小瀧は首を振った。否定された和加代はその続きの言葉を発すること無く、小瀧を見つめたまま固まる。
絶望したのだ。小瀧はこのまま戦場へ向かい死ぬことを受け入れている。生き残るという意思がないのだ。
死んでしまえば二度と会うことはできない。小瀧が後悔しているように、もっとたくさん彼と話していればと和加代もどうしようもない後悔に苛まれた。
「出会わなければよかったと思わせてくるこの世界は、本当に残酷ですね」
自嘲するように小瀧はくすりと笑った。愛想笑いが張り付いた顔は、もう二度と自然に心から湧き上がる喜びや幸せに染まることはない。
「そん、な……」
和加代は何も言えず、行き場を失った視線を膝の上に落とした。
もう戻ることはできない。彼らを止めることも、未来を変えることもできないのだ。
目の奥が熱くなり気を抜けば自分も泣いてしまいそうだった。けれど今は泣けない。泣いてはいけない。
今にも泣き出しそうになるのを必死に我慢して、自分ができる精一杯のぎこちない笑顔を浮かべてみる。我ながら情けない顔をしていると思った。それでも彼女が少しでも安心できるように笑う。誰も咎めることはない。止めてはくれなかった。
後悔だけが押し寄せてくる。蕗がもう泣かなくて済むように、笑って暮らせるようになってほしいと願ったから軍に入ったはずなのに。
十年後しに再会してから今まで彼女を泣かせてばかりだった。
再会したあの日、もう泣かないでと言えたのに。蕗が涙を流すのは自分のせいだと責め続けた。
「なんて狂った世界なんだろうな」
仁武の諦めたような、全てに絶望したような言葉が蕗の心の奥深くを突き刺す。その一言で蕗の中にあった何かがバラバラに崩れ落ちた。
絶望。もう何もかもが無駄で、どうしようもないのだと知らしめられる。けれど絶望と共に、安心感もあった。
仁武の中にも戦争に反対的な思いがあったのだ。軍人である彼が誰よりも責任感に苦しめられている。そのうえで彼は戦争に反抗していると取れる言葉を口にした。
非国民だと嘲笑われると理解した上でそう口にしたのだ。
「俺は、死にたくない。やり残したことがたくさんあるんだ。したいことが、してやりたいことが、たっくさんある」
今度は首だけではなく、身体全体で蕗に向き直った。仁武の表情は覚悟と決意に引き締まっている。絶対に揺るがない決意。
しかし、そんな決意にも不安や迷いなどといった本心は見え隠れする。
隠し事が苦手な仁武はどれだけ成長しても不器用で隠し事が苦手なままであった。
「確かに、やり残したことがたくさんありますね」
「小瀧……さん………」
小瀧の呟きを聞いた和加代は、傍に立って目を伏せている小瀧を見上げる。軍帽で影が掛かった顔は泣いているようにも笑っているようにも見える。
「もっとたくさんのことを伝えるべきでした。もう、手遅れでしょうが」
「まだ間に合うんじゃ、今ならきっと……」
「いいえ、もうどうしようもないんです」
和加代の言葉を遮るように、小瀧は首を振った。否定された和加代はその続きの言葉を発すること無く、小瀧を見つめたまま固まる。
絶望したのだ。小瀧はこのまま戦場へ向かい死ぬことを受け入れている。生き残るという意思がないのだ。
死んでしまえば二度と会うことはできない。小瀧が後悔しているように、もっとたくさん彼と話していればと和加代もどうしようもない後悔に苛まれた。
「出会わなければよかったと思わせてくるこの世界は、本当に残酷ですね」
自嘲するように小瀧はくすりと笑った。愛想笑いが張り付いた顔は、もう二度と自然に心から湧き上がる喜びや幸せに染まることはない。
「そん、な……」
和加代は何も言えず、行き場を失った視線を膝の上に落とした。
もう戻ることはできない。彼らを止めることも、未来を変えることもできないのだ。



