微かに硝煙の匂いが混ざったそよ風が頬を撫でる。決して心地良いとは言えない風が今はこの沈黙を打ち破ってくれていた。
「私は、ずっと嘘をついて生きてきた。母さんに痛めつけられても、疫病神だと罵られても嘘をついた。それが、嘘に嘘を重ねて生きてきた私なの」
シャベルを握り締め、色が変わった土を眺めながら吐き捨てるようにそう言った。
彼女の自暴自棄な様子など初めて見たからか、縁側に座ってその言葉を聞いていた仁武に返す言葉などなかった。
盛り上がった土を眺める彼女の横顔は美しいと言うよりも儚く見えた。触れただけで壊れてしまいそうなほどに華奢な彼女だが、今は触れなくとも勝手に壊れてしまうのではないかと思うほどに弱々しい。
心の中から溢れ出る不安と後悔が仁武の心の中を掻き乱していく。
「一度吐いた嘘を取り消すことはできないし、吐いた嘘と一生を共にしないといけなくなる。私は今も自分が吐いた嘘に縛られて生きているの。それは、仁武も同じ?」
何かに縋り付くような、今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で彼女は見つめる。
いつだったか、誰かに同じようなことを言われた。一度吐いた嘘は取り消すことができず、死ぬまで付き合っていかなくてはならないと。
「そうだな」
縁側から立ち上がろうとしたら、想像以上に腰が重い。立ち上がって彼女に歩み寄ることが憚られているようだった。
けれど無理矢理にでも立ち上がり、何かに怯えているらしい蕗の傍に歩み寄ると、シャベルを握る彼女の手にそっと触れた。
何も言わずに手を触ったものだから彼女は驚き目を丸くして仁武を見上げた。
きょとんと首を傾げる彼女は、やはり何処にでもいる普通の女の子である。和加代や他の少女達と何ら変わらない普通の女の子。疫病神でも何でもない、将来を持っていて生きる権利を与えられた人間。
「結局、皆嘘つきなんだよ」
自分は彼女の笑顔を未来を守りたくて軍に入ったのだ。もう泣かなくて済むように、平和な未来が訪れるように。
彼女には見えない降ろしている手を強く握り締めると、心の中で覚悟が決まった気がした。
「もう、行こう」
「いいのか。もう少しこのままでもいいのに」
「いいんだよ。仁武がそんな事言うなんて珍しいね」
自分でも何を言っているのか理解できない。蕗の不思議がる顔が自分を心配しているようで、後悔の念が胸の奥で渦を成す。
けれど嘘ではないと断言できた。嘘つきだと言われ続けた自分だが、今彼女に伝えた想いは嘘ではない。
もう少しだけ二人きりの時間を過ごしたかった。きっとこの場所を離れれば、紬や小瀧達が自分達を心配して待っていることだろう。彼らといると嫌でも騒がしくなるし、退屈だなど感じる時間が無いに等しい。
だからこそ、誰にも邪魔されず蕗と二人きりになれるこの時間が貴重だった。
「いや、いい。なんでもない。ほら、早く行こう。皆が心配しているよ」
この気持ちは嘘だった。なんでもないなんてことはない。もっと二人でいたいと言いたい、まだ皆のところには行きたくないと言いたい。けれどそれは自分だけが思い描く理想に過ぎないのだ。
この気持ちを彼女に伝えたところで彼女が同じ思いを抱いているとは限らない。
思いを伝えて迷惑だと弾かれてしまうのが何よりも恐ろしいのだ。
「私は、ずっと嘘をついて生きてきた。母さんに痛めつけられても、疫病神だと罵られても嘘をついた。それが、嘘に嘘を重ねて生きてきた私なの」
シャベルを握り締め、色が変わった土を眺めながら吐き捨てるようにそう言った。
彼女の自暴自棄な様子など初めて見たからか、縁側に座ってその言葉を聞いていた仁武に返す言葉などなかった。
盛り上がった土を眺める彼女の横顔は美しいと言うよりも儚く見えた。触れただけで壊れてしまいそうなほどに華奢な彼女だが、今は触れなくとも勝手に壊れてしまうのではないかと思うほどに弱々しい。
心の中から溢れ出る不安と後悔が仁武の心の中を掻き乱していく。
「一度吐いた嘘を取り消すことはできないし、吐いた嘘と一生を共にしないといけなくなる。私は今も自分が吐いた嘘に縛られて生きているの。それは、仁武も同じ?」
何かに縋り付くような、今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で彼女は見つめる。
いつだったか、誰かに同じようなことを言われた。一度吐いた嘘は取り消すことができず、死ぬまで付き合っていかなくてはならないと。
「そうだな」
縁側から立ち上がろうとしたら、想像以上に腰が重い。立ち上がって彼女に歩み寄ることが憚られているようだった。
けれど無理矢理にでも立ち上がり、何かに怯えているらしい蕗の傍に歩み寄ると、シャベルを握る彼女の手にそっと触れた。
何も言わずに手を触ったものだから彼女は驚き目を丸くして仁武を見上げた。
きょとんと首を傾げる彼女は、やはり何処にでもいる普通の女の子である。和加代や他の少女達と何ら変わらない普通の女の子。疫病神でも何でもない、将来を持っていて生きる権利を与えられた人間。
「結局、皆嘘つきなんだよ」
自分は彼女の笑顔を未来を守りたくて軍に入ったのだ。もう泣かなくて済むように、平和な未来が訪れるように。
彼女には見えない降ろしている手を強く握り締めると、心の中で覚悟が決まった気がした。
「もう、行こう」
「いいのか。もう少しこのままでもいいのに」
「いいんだよ。仁武がそんな事言うなんて珍しいね」
自分でも何を言っているのか理解できない。蕗の不思議がる顔が自分を心配しているようで、後悔の念が胸の奥で渦を成す。
けれど嘘ではないと断言できた。嘘つきだと言われ続けた自分だが、今彼女に伝えた想いは嘘ではない。
もう少しだけ二人きりの時間を過ごしたかった。きっとこの場所を離れれば、紬や小瀧達が自分達を心配して待っていることだろう。彼らといると嫌でも騒がしくなるし、退屈だなど感じる時間が無いに等しい。
だからこそ、誰にも邪魔されず蕗と二人きりになれるこの時間が貴重だった。
「いや、いい。なんでもない。ほら、早く行こう。皆が心配しているよ」
この気持ちは嘘だった。なんでもないなんてことはない。もっと二人でいたいと言いたい、まだ皆のところには行きたくないと言いたい。けれどそれは自分だけが思い描く理想に過ぎないのだ。
この気持ちを彼女に伝えたところで彼女が同じ思いを抱いているとは限らない。
思いを伝えて迷惑だと弾かれてしまうのが何よりも恐ろしいのだ。



