仁武は蕗を挟んで江波方を見ると、確認を取りつつも確信めいた様子で問う。
「あいつの家の庭には樒が植えられていた。樒は人間にとって毒だ。接種すれば、様々な症状に見舞われる」
「樒と洸希に一体何の関係が?」
段々、江波方の仁武に対する警戒心が強くなっていく。そのことに気づいている様子の仁武だが、話を止めることはない。
「あいつは言ったんだ。『樒と自分は同じだ』って。あいつの中に別の存在が生まれたのは、長年継続的に樒の毒を接種したことによる中毒なんじゃないかと」
「私も洸希の中には本当に別の存在がいたんだと思う。あの性格じゃあ、すぐに優しくなれるわけがないし。私達が知る洸希と仁武を虐めていた洸希は別人だよ」
蕗を疫病神として陥れたのは、丘の上で生きたいと願った洸希とは違う存在。そうじゃないと、今までずっと騙され続けていたことになる。
自分はどれだけ生きようが、何をしようが、どんな出会いと別れを果たそうが疫病神に変わりない。皆を不幸に陥れる、自分のみならず周りにいる人々に地獄を見せてしまう。そういう運命を背負ってこの世界に生まれたのだ。
父と母が毎日喧嘩をして父が母と蕗を残して家を出たのも、母が貧しさのあまり気を病んで餓死したのも全ては蕗がいたからだ。
(私って何なのかな)
時折こうして考えて自分を責めては、自分が誰なのか分からなくなる。生まれてきた意味、生きている意味、何故生き延びたのか、何故生きてしまったのか。何度死のうとしただろう、何度この人生を諦めようとしただろう。
何度もそう考えて、けれど結局答えなど見つからず今まで生きてきた。
現実は残酷なものだが、時折光を与える。その光が仁武達との出会いだった。
「そうか、君たちは洸希をそうやって見てくれていたんだね。俺もそう思ってる。本当の洸希はあんな卑劣な奴じゃなくて、ただ生きたいと願う普通の人間だって」
「そうですよ。きっと、そうです」
教室の先を遠い目をして見つめていた江波方は、ふと何かを思い出したように顔を上げた。
隣りに座っている蕗を見ると、「肝心なことに答えていなかった」と呟く。蕗の質問は江波方と洸希の関係性。彼の言う通り、未だ答えてもらえていないままだった。
「俺と洸希は血の繋がった兄弟じゃあないんだ。義兄弟ってやつで、両親が死んだことで身寄りが無くなったあいつを俺の親父が引き取った。だから本当の兄弟じゃない。けど、俺は弟だと思っていたよ」
「思っていた?」
過去形で言われたことに疑問符が浮かぶ。江波方は言葉の通りに本気で洸希のことを弟だと思っていた。それなのに何故過去形になってしまったのだろうか。
「あいつが俺に言ったんだ。『お前なんか家族じゃない』ってね」
「江波方さんは弟だと思っていたのに、どうして」
「さあ、それはあいつにしか分からない。ただ、一つ言えるとすれば、俺はあいつに嫌われてしまったのだろう」
自嘲するように言った江波方は、和加代と怪我が人の手当てをする紬のことを見た。彼女を見る目は優しき細められ、心底愛おしげである。
「あいつの家の庭には樒が植えられていた。樒は人間にとって毒だ。接種すれば、様々な症状に見舞われる」
「樒と洸希に一体何の関係が?」
段々、江波方の仁武に対する警戒心が強くなっていく。そのことに気づいている様子の仁武だが、話を止めることはない。
「あいつは言ったんだ。『樒と自分は同じだ』って。あいつの中に別の存在が生まれたのは、長年継続的に樒の毒を接種したことによる中毒なんじゃないかと」
「私も洸希の中には本当に別の存在がいたんだと思う。あの性格じゃあ、すぐに優しくなれるわけがないし。私達が知る洸希と仁武を虐めていた洸希は別人だよ」
蕗を疫病神として陥れたのは、丘の上で生きたいと願った洸希とは違う存在。そうじゃないと、今までずっと騙され続けていたことになる。
自分はどれだけ生きようが、何をしようが、どんな出会いと別れを果たそうが疫病神に変わりない。皆を不幸に陥れる、自分のみならず周りにいる人々に地獄を見せてしまう。そういう運命を背負ってこの世界に生まれたのだ。
父と母が毎日喧嘩をして父が母と蕗を残して家を出たのも、母が貧しさのあまり気を病んで餓死したのも全ては蕗がいたからだ。
(私って何なのかな)
時折こうして考えて自分を責めては、自分が誰なのか分からなくなる。生まれてきた意味、生きている意味、何故生き延びたのか、何故生きてしまったのか。何度死のうとしただろう、何度この人生を諦めようとしただろう。
何度もそう考えて、けれど結局答えなど見つからず今まで生きてきた。
現実は残酷なものだが、時折光を与える。その光が仁武達との出会いだった。
「そうか、君たちは洸希をそうやって見てくれていたんだね。俺もそう思ってる。本当の洸希はあんな卑劣な奴じゃなくて、ただ生きたいと願う普通の人間だって」
「そうですよ。きっと、そうです」
教室の先を遠い目をして見つめていた江波方は、ふと何かを思い出したように顔を上げた。
隣りに座っている蕗を見ると、「肝心なことに答えていなかった」と呟く。蕗の質問は江波方と洸希の関係性。彼の言う通り、未だ答えてもらえていないままだった。
「俺と洸希は血の繋がった兄弟じゃあないんだ。義兄弟ってやつで、両親が死んだことで身寄りが無くなったあいつを俺の親父が引き取った。だから本当の兄弟じゃない。けど、俺は弟だと思っていたよ」
「思っていた?」
過去形で言われたことに疑問符が浮かぶ。江波方は言葉の通りに本気で洸希のことを弟だと思っていた。それなのに何故過去形になってしまったのだろうか。
「あいつが俺に言ったんだ。『お前なんか家族じゃない』ってね」
「江波方さんは弟だと思っていたのに、どうして」
「さあ、それはあいつにしか分からない。ただ、一つ言えるとすれば、俺はあいつに嫌われてしまったのだろう」
自嘲するように言った江波方は、和加代と怪我が人の手当てをする紬のことを見た。彼女を見る目は優しき細められ、心底愛おしげである。



