受け止めきれていない様子の和加代だが、この女学校の生徒であるため怪我人の手当をしなくてはならない。そんな彼女を紬は手伝うためその場を離れた。
そして小瀧が基地にいるであろう芝と連絡を取るため教室を出ていく。仁武と江波方に挟まれるように蕗は座り直し、ずっと狙っていたこの時間がやってきた。これはチャンスだ。
「あの、江波方さん」
「ん?」
「こんなこと聞くべきではないと分かっているんですけど、どうしても気になって……。ただ、そのままの意味で教えてください。江波方さんと洸希はどういう関係なんですか?」
元々の目的を今になって思い出した蕗だが、上手く江波方を引き止めることができた。この時間を逃さないように微かに江波方の方へ身体を寄せる。
目の前で友里恵を殺し、最後には自殺した洸希が江波方のことを『兄ちゃん』と呼んでいたこと。それがずっと蕗の中で気がかりだったのだ。
これでは一人だと言っていた洸希は蕗と仁武に嘘を吐いていたことになる。それでも、嘘を吐かれたから腹を立てているわけではなく、ただ気になっただけなのだ。洸希が兄である江波方の存在を隠した理由が、江波方が弟である洸希の存在を隠した理由が。
紬から聞いた話では、江波方は弟を見つけたと言ったらしい。それが洸希のことを指していることくらい蕗にも分かる。
しかし、何故互いの存在を互いに隠す必要があったのか、それが分からないのだ。
「どうして蕗ちゃんは、洸希のことを知っているんだ?」
「え、えっと……。仁武の紹介、です」
「嘘は吐かなくていいよ。もう知ってるから」
「知ってるって……」
江波方は軍帽を取ると、額に手を当て深く項垂れた。はあと長い溜息を吐き、横目で何も知らない純粋無垢な少女を見つめる。
言ってしまって良いのだろうか。こんなにも清く美しい心を持った少女に全てを包み隠さず言ってしまっても良いのか。
聞かれたからには答えなくてはならない。そう頭では理解していても、上手く言葉が思いつかないのだ。
「……洸希は昔から喧嘩っ早かった。あいつがある男の子を複数人で虐めていること、その相手が風柳くんであることにずっと前から気づいていたんだ」
江波方は遠い目をしてそう言った。二人は、仁武と江波方は蕗の知らないところでずっと昔に出会っていた。誰も知らない間に、一度だけ。
隣りに座っている仁武を見ると、彼は何かを考えているのかやけに静かである。江波方の話を聞いて何を思っているのかなど蕗に分かるはずもない。
「当事者である風柳くんは、何か知っているか?」
「……前に、あいつに話をつけたことがあった。どうして俺だったのかって問い詰めてみたら、あいつは『自分の中にもう一人誰かがいる』なんて言い出したんだ。あの時は嘘だと思ったよ。でも今は、そうは思えない」
蕗を疫病神としてあらぬ噂を町に流し、陥れたのは洸希だ。けれどそれは蕗がよく知る彼ではない。
仁武の話では、彼の中にはもう一人自分以外の存在がいると言ったらしい。その人物が蕗を疫病神だと陥れ、仁武を毎日のように痛めつけたということだ。
「俺が思うに、あいつは二重人格者なんだろう。精神的に病んで現れるもう一人の自分。けれどあいつの場合は、精神的にと言うより中毒症状によるものなんじゃないかと考えている」
「中毒症状? それで別の人格が生まれるのか?」
おそらく仁武の中でその考えに確証は持てていない。けれどそう考えることでしか、彼によって刻まれた傷と発言に証明がつかないのだ。
そして小瀧が基地にいるであろう芝と連絡を取るため教室を出ていく。仁武と江波方に挟まれるように蕗は座り直し、ずっと狙っていたこの時間がやってきた。これはチャンスだ。
「あの、江波方さん」
「ん?」
「こんなこと聞くべきではないと分かっているんですけど、どうしても気になって……。ただ、そのままの意味で教えてください。江波方さんと洸希はどういう関係なんですか?」
元々の目的を今になって思い出した蕗だが、上手く江波方を引き止めることができた。この時間を逃さないように微かに江波方の方へ身体を寄せる。
目の前で友里恵を殺し、最後には自殺した洸希が江波方のことを『兄ちゃん』と呼んでいたこと。それがずっと蕗の中で気がかりだったのだ。
これでは一人だと言っていた洸希は蕗と仁武に嘘を吐いていたことになる。それでも、嘘を吐かれたから腹を立てているわけではなく、ただ気になっただけなのだ。洸希が兄である江波方の存在を隠した理由が、江波方が弟である洸希の存在を隠した理由が。
紬から聞いた話では、江波方は弟を見つけたと言ったらしい。それが洸希のことを指していることくらい蕗にも分かる。
しかし、何故互いの存在を互いに隠す必要があったのか、それが分からないのだ。
「どうして蕗ちゃんは、洸希のことを知っているんだ?」
「え、えっと……。仁武の紹介、です」
「嘘は吐かなくていいよ。もう知ってるから」
「知ってるって……」
江波方は軍帽を取ると、額に手を当て深く項垂れた。はあと長い溜息を吐き、横目で何も知らない純粋無垢な少女を見つめる。
言ってしまって良いのだろうか。こんなにも清く美しい心を持った少女に全てを包み隠さず言ってしまっても良いのか。
聞かれたからには答えなくてはならない。そう頭では理解していても、上手く言葉が思いつかないのだ。
「……洸希は昔から喧嘩っ早かった。あいつがある男の子を複数人で虐めていること、その相手が風柳くんであることにずっと前から気づいていたんだ」
江波方は遠い目をしてそう言った。二人は、仁武と江波方は蕗の知らないところでずっと昔に出会っていた。誰も知らない間に、一度だけ。
隣りに座っている仁武を見ると、彼は何かを考えているのかやけに静かである。江波方の話を聞いて何を思っているのかなど蕗に分かるはずもない。
「当事者である風柳くんは、何か知っているか?」
「……前に、あいつに話をつけたことがあった。どうして俺だったのかって問い詰めてみたら、あいつは『自分の中にもう一人誰かがいる』なんて言い出したんだ。あの時は嘘だと思ったよ。でも今は、そうは思えない」
蕗を疫病神としてあらぬ噂を町に流し、陥れたのは洸希だ。けれどそれは蕗がよく知る彼ではない。
仁武の話では、彼の中にはもう一人自分以外の存在がいると言ったらしい。その人物が蕗を疫病神だと陥れ、仁武を毎日のように痛めつけたということだ。
「俺が思うに、あいつは二重人格者なんだろう。精神的に病んで現れるもう一人の自分。けれどあいつの場合は、精神的にと言うより中毒症状によるものなんじゃないかと考えている」
「中毒症状? それで別の人格が生まれるのか?」
おそらく仁武の中でその考えに確証は持てていない。けれどそう考えることでしか、彼によって刻まれた傷と発言に証明がつかないのだ。



