嘘つきと疫病神

 その声が聞こえてきた瞬間、反射的に耳を塞ぐ。仁武の背中に顔を埋めて現実から目を逸らした。

「学校の中に人がいる……」
「行こう!」

 坂を下り学校への道を走ると、微かに人の声が聞こえた。硝子がズレて骨組みだけになった窓の向こうには、忙しなく走り回る女学生が見える。
 仁武の背から蕗が降りたことを確認すると、四人は怪我人で溢れ返る学校の中へと歩みを進める。人の話し声と呻き声があちらこちらから聞こえてきた。
 黒く焦げた廊下を進んでいると、奥にある教室から救急箱を持った窶れた表情の女学生が顔を出す。

「怪我人です、か……」

 女学生は四人を見るなり目を丸くして、手に持っていた救急箱をその場に落とした。焦げた廊下の上に包帯などが散らばるが、そんなことなどお構いなしに女学生は走り出す。
 蕗も仁武の傍から離れてその女学生に向かって走り出した。

「和加代!」
「蕗ちゃん! 無事だったのね!」

 走った勢いのまま二人は抱き合う。飛び跳ねながら喜ぶ二人の後ろで、仁武達は束の間の安心を得た。
 ようやく落ち着ける。ずっと強張っていた身体から力が抜け、少しでも気を抜けばその場に倒れてしまいそうだった。

「皆さん、ご無事だったんですね」
「えっ、小瀧さん?」

 すぐ隣の教室の入口から、所々破れた軍服を身に纏い、頬を煤で汚した小瀧が目を見開いて立っていた。一目見て小瀧だと分からなかったのは、印象深い眼鏡を掛けていなかったからかもしれない。

「怪我はなさそうですね。一先ず、入って休みましょう」

 小瀧に促され、元は教室だった空間の端に皆は腰を下ろす。ようやく落ち着ける場所を見つけ、ほっと一息つくことができた。

「芝さんは? まだ来ていなんですか?」
「彼なら基地にいると連絡がありました。それより、どうして鏡子さんはご一緒ではないんです?」

 半ば尋問するように、小瀧は一段階低くした声で仁武に問いかける。問われた仁武は小瀧から目を逸らし、ぐっと奥歯を噛んで黙り込んだ。
 何も言えないでいる仁武の代わりに、膝を抱いて座った蕗がぽつりと独り言のように言う。

「死にました」
「えっ……?」
「私を庇って、瓦礫の下敷きになりました。多分、即死です」
「そん、な……」

 カタカタと震える手で口元を覆う和加代と硬い表情で目を逸らす小瀧。二人の反応は最もだった。もはや、淡々と言ってのけた蕗の方がこの場では異質だったことだろう。
 正直なところ、蕗だって受け止めきれていない。柳凪が潰れたことも鏡子が死んだことも何もかも。けれど信じるしか無い。信じられないからと言って鏡子が生き返ることなど無いのだから。