首だけを動かして振り返った仁武の目には蔑みの色が滲んでいる。蕗も同じ思いでいるはずなのに、何故止めるのか疑問に思っている目。
ただ、大切だと思っている人を助けようとしているだけなのに、止められたら誰だって同じ反応をするだろう。
しかし、それが無駄であると蕗は知っていた。今更この瓦礫を取り除いたところで鏡子は助からない。
仁武がこれから何をしようとしているのかなんて、きっとこの瓦礫をどかそうとでも思っているのだろう。それが無駄な行為で余計な傷を身体に刻むだけなのだから蕗は止めるのだ。
「やめて」
「……なんで止めるんだよ」
「無駄だからだよ。もう、無理なんだよ」
「まだ何もしてないくせに……。まだ、間に合うかもしれないだろ」
初めて聞く仁武の鉄のように冷え切った声に怯む身体を叩いて彼の身体に抱き付いたまま離れない。このまま離れてしまえば確実に彼は自殺行為とも取れる行動に出てしまう。
彼が傷つかないためにも、離れるわけにはいかなかった。
「だから、無駄だって言ってるじゃんか」
「なんで始めから諦めるんだよ。なんで蕗がそんな事を言うんだよ」
仁武は抱き付く蕗の腕に手を回し、振り解こうと無理矢理握り締めた。簡単に蕗の細い腕は仁武の手に包まれ、掴む強さは痛みを感じるほどだ。
普段の彼ならばこんなことしない。蕗が痛がることも傷つくこともしなはずなのに。
目の前にいる仁武はまるで別人のようだった。仁武の姿を模した別の何か、そう思う方が納得できるほどに今の仁武は正気を失っていた。
「鏡子さんは死んだの! 私を庇ったせいで瓦礫の下敷きになった。私のせいで死んだの!」
自分があの瞬間、あの場所にいなかったら。あともう少しだけ彼女達に声を掛けるのが遅かったら。始めから彼女に無理を言ってお使いになんか出なければ。彼女と一緒に店でゆっくりと休んでいれば。
今更どうしようもない後悔が背中に重く伸し掛かる。結局いつも悲劇を生むのは自分の行動のせいだった。
「死んじゃった人のために自分が傷つくようなことをしないでよ。もう、やめてよ……」
「なんで、なんでだよ。蕗がそんな事を言ったら、俺はどうしたら……」
「早く気づいてよ! こんなこと無駄だって、何も意味がないって気づいてよ!」
仁武の両腕を掴み身体を前後に激しく振って叫ぶ。こうすれば気づいてくれると思った。何もかもが無駄であると気がつけば、戦場に行くこともなくなるのではないかと期待した。
まだ間に合う。仁武も江波方もまだ生きている。今逃げ出せば、戦場に行くことなく何処か遠い場所で暮らすことだってできる。
彼が戦場に行かなくて済むようになるのではないか、という淡い期待を込めて叫ぶことしか蕗にはできない。
「戦争に何の意味があるの? どうして仁武達が死にに征くようなことをしないといけないの? どうして仁武達だったの!」
戦場に行った仁武が生きて帰って来るなど到底思えなかった。少しでも信じてやるべきだったかもしれない。
戦争に対して反抗的なことを口にしたら人々に忌み嫌われる。そんな現実が馬鹿馬鹿しく、そしてそんな現実に囚われている自分が情けなくてならなかった。
ただ、大切だと思っている人を助けようとしているだけなのに、止められたら誰だって同じ反応をするだろう。
しかし、それが無駄であると蕗は知っていた。今更この瓦礫を取り除いたところで鏡子は助からない。
仁武がこれから何をしようとしているのかなんて、きっとこの瓦礫をどかそうとでも思っているのだろう。それが無駄な行為で余計な傷を身体に刻むだけなのだから蕗は止めるのだ。
「やめて」
「……なんで止めるんだよ」
「無駄だからだよ。もう、無理なんだよ」
「まだ何もしてないくせに……。まだ、間に合うかもしれないだろ」
初めて聞く仁武の鉄のように冷え切った声に怯む身体を叩いて彼の身体に抱き付いたまま離れない。このまま離れてしまえば確実に彼は自殺行為とも取れる行動に出てしまう。
彼が傷つかないためにも、離れるわけにはいかなかった。
「だから、無駄だって言ってるじゃんか」
「なんで始めから諦めるんだよ。なんで蕗がそんな事を言うんだよ」
仁武は抱き付く蕗の腕に手を回し、振り解こうと無理矢理握り締めた。簡単に蕗の細い腕は仁武の手に包まれ、掴む強さは痛みを感じるほどだ。
普段の彼ならばこんなことしない。蕗が痛がることも傷つくこともしなはずなのに。
目の前にいる仁武はまるで別人のようだった。仁武の姿を模した別の何か、そう思う方が納得できるほどに今の仁武は正気を失っていた。
「鏡子さんは死んだの! 私を庇ったせいで瓦礫の下敷きになった。私のせいで死んだの!」
自分があの瞬間、あの場所にいなかったら。あともう少しだけ彼女達に声を掛けるのが遅かったら。始めから彼女に無理を言ってお使いになんか出なければ。彼女と一緒に店でゆっくりと休んでいれば。
今更どうしようもない後悔が背中に重く伸し掛かる。結局いつも悲劇を生むのは自分の行動のせいだった。
「死んじゃった人のために自分が傷つくようなことをしないでよ。もう、やめてよ……」
「なんで、なんでだよ。蕗がそんな事を言ったら、俺はどうしたら……」
「早く気づいてよ! こんなこと無駄だって、何も意味がないって気づいてよ!」
仁武の両腕を掴み身体を前後に激しく振って叫ぶ。こうすれば気づいてくれると思った。何もかもが無駄であると気がつけば、戦場に行くこともなくなるのではないかと期待した。
まだ間に合う。仁武も江波方もまだ生きている。今逃げ出せば、戦場に行くことなく何処か遠い場所で暮らすことだってできる。
彼が戦場に行かなくて済むようになるのではないか、という淡い期待を込めて叫ぶことしか蕗にはできない。
「戦争に何の意味があるの? どうして仁武達が死にに征くようなことをしないといけないの? どうして仁武達だったの!」
戦場に行った仁武が生きて帰って来るなど到底思えなかった。少しでも信じてやるべきだったかもしれない。
戦争に対して反抗的なことを口にしたら人々に忌み嫌われる。そんな現実が馬鹿馬鹿しく、そしてそんな現実に囚われている自分が情けなくてならなかった。



