地面に崩れ落ち、痛みに朦朧としながらも顔を上げると、つい数秒前まで自身がいた場所に大量の瓦礫が降り落ちていた。
燃え上がる炎の先から紬が顔を出す。涙を浮かべ煤で頬を汚した彼女は炎に包まれた瓦礫に向かって誰かの名前を叫んでいる。
おかしい、何故だ。何故、紬の隣にいたはずの人物がいないのだ。
頭上を一機の爆撃機が横切る。灰色の胴体から爆弾が零れ落ち、その下にあった建物が跡形もなく音と炎を立て爆散する。
爆風が辺り一面を襲い、硝煙の匂いと炎の匂いが鼻を突く。
「鏡子! 鏡子!」
地面に膝を付いた紬は目の前にある瓦礫に向かって何度もその名を呼ぶ。何度も何度も名前を呼ぶのに、呼ばれた相手は何も答えることはない。
ふと足元から何かが伸びていることに気がついた。見てはいけないと分かっていても、目はその方向へと向けられていく。
炎で包まれた瓦礫の下から、蕗の足元に向かって赤黒い何かが伸びていた。
これは、人間の手? 手首らしき部分には散り散りになった何かが付いている。何処かで見たことがあるそれは、一体何だったか。
「鏡子……さん…………?」
これは鏡子の手だ。手首に付いているのは彼女のブレスレット。
何故、彼女が瓦礫の下にいるのだ。何故、何も答えない。何故、こんな事になっているのだ。
もしかして、自分を降り落ちる瓦礫の下から押し飛ばしたのは、鏡子なのか。
「嫌………」
もう一度耳元で爆発音が鳴り、鏡子が下敷きになった瓦礫の上に再び燃え上がった瓦礫が降り落ちる。
何かを押し潰す鈍い音が耳に届いた。とにかく不快で、現実を知らしめるその音に吐き気を感じた。
足元に赤黒い液体が広がり、それを見た瞬間に“嫌な予感”が胸の奥で渦を巻き始める。
「蕗!」
「五十鈴さん!」
とうとう、恐怖のあまり幻聴まで聞こえ始めた。まさか自分が死んだわけではないだろう。
視界の端に誰かが膝を付いた。目の前の瓦礫に釘付けになっていた目を動かせば、そこには何度も見た軍服姿の仁武がいる。
「何があったんだ」
「きょ、きょう、こ……鏡子が………」
目の前の光景にパニック状態になった紬の傍に駆け寄った江波方は、蒼白した表情で身体を震わせる紬を抱き締める。
江波方がどれだけ強く抱きしめても、紬の恐怖に支配された身体の震えは止まらない。
全てを察した二人は顔を見合わせてから、蕗の方へと視線を動かす。
煤だらけで汚れてはいるが、怪我が見当たらない蕗。同じく目立った傷はない紬。けれど恐怖に動けないでいる二人。
この状況と紬の発言から考えられることは一つしか無いだろう。
「……まだ、間に合う。間に合う」
「仁武……?」
鏡子が下敷きになった瓦礫を見つめた仁武は何度かそう呟いた。彼の瓦礫を見つめる瞳に光はなく、ただ己の憎悪に支配されている。
瓦礫から目を離すことなくゆったりと立ち上がった仁武は、一歩瓦礫の方へと踏み出した。
すぐに彼が何をしようとしているのか察した蕗は、立ち上がって彼の腕を掴む。しかし蕗の非力さでは、腕を掴む程度だと軍人である彼には敵わない。
それならばと背後から抱き付けば、仁武の動きは止まった。
燃え上がる炎の先から紬が顔を出す。涙を浮かべ煤で頬を汚した彼女は炎に包まれた瓦礫に向かって誰かの名前を叫んでいる。
おかしい、何故だ。何故、紬の隣にいたはずの人物がいないのだ。
頭上を一機の爆撃機が横切る。灰色の胴体から爆弾が零れ落ち、その下にあった建物が跡形もなく音と炎を立て爆散する。
爆風が辺り一面を襲い、硝煙の匂いと炎の匂いが鼻を突く。
「鏡子! 鏡子!」
地面に膝を付いた紬は目の前にある瓦礫に向かって何度もその名を呼ぶ。何度も何度も名前を呼ぶのに、呼ばれた相手は何も答えることはない。
ふと足元から何かが伸びていることに気がついた。見てはいけないと分かっていても、目はその方向へと向けられていく。
炎で包まれた瓦礫の下から、蕗の足元に向かって赤黒い何かが伸びていた。
これは、人間の手? 手首らしき部分には散り散りになった何かが付いている。何処かで見たことがあるそれは、一体何だったか。
「鏡子……さん…………?」
これは鏡子の手だ。手首に付いているのは彼女のブレスレット。
何故、彼女が瓦礫の下にいるのだ。何故、何も答えない。何故、こんな事になっているのだ。
もしかして、自分を降り落ちる瓦礫の下から押し飛ばしたのは、鏡子なのか。
「嫌………」
もう一度耳元で爆発音が鳴り、鏡子が下敷きになった瓦礫の上に再び燃え上がった瓦礫が降り落ちる。
何かを押し潰す鈍い音が耳に届いた。とにかく不快で、現実を知らしめるその音に吐き気を感じた。
足元に赤黒い液体が広がり、それを見た瞬間に“嫌な予感”が胸の奥で渦を巻き始める。
「蕗!」
「五十鈴さん!」
とうとう、恐怖のあまり幻聴まで聞こえ始めた。まさか自分が死んだわけではないだろう。
視界の端に誰かが膝を付いた。目の前の瓦礫に釘付けになっていた目を動かせば、そこには何度も見た軍服姿の仁武がいる。
「何があったんだ」
「きょ、きょう、こ……鏡子が………」
目の前の光景にパニック状態になった紬の傍に駆け寄った江波方は、蒼白した表情で身体を震わせる紬を抱き締める。
江波方がどれだけ強く抱きしめても、紬の恐怖に支配された身体の震えは止まらない。
全てを察した二人は顔を見合わせてから、蕗の方へと視線を動かす。
煤だらけで汚れてはいるが、怪我が見当たらない蕗。同じく目立った傷はない紬。けれど恐怖に動けないでいる二人。
この状況と紬の発言から考えられることは一つしか無いだろう。
「……まだ、間に合う。間に合う」
「仁武……?」
鏡子が下敷きになった瓦礫を見つめた仁武は何度かそう呟いた。彼の瓦礫を見つめる瞳に光はなく、ただ己の憎悪に支配されている。
瓦礫から目を離すことなくゆったりと立ち上がった仁武は、一歩瓦礫の方へと踏み出した。
すぐに彼が何をしようとしているのか察した蕗は、立ち上がって彼の腕を掴む。しかし蕗の非力さでは、腕を掴む程度だと軍人である彼には敵わない。
それならばと背後から抱き付けば、仁武の動きは止まった。



