嘘つきと疫病神

 その事に気がついた瞬間、蕗だけが俯いて奥歯を噛み締めた。悔いても悔いても友里恵がまた笑ってくれることはない。それが何よりも悔しく、そしてやるせなかった。

「蕗ちゃんは優しいわね」
「え?」
「きっと友里恵は思っているわ。悲しみながら貴方の誕生日を祝うよりも、今だけは笑顔で楽しみながら祝うほうがいいって」

 今いる全員がそう思っていると言いたげに鏡子は言うが、所詮は彼女の自己解釈でしか無い。けれど友里恵ならばそう言うだろう、笑って祝いなさいと。
 何処かからか見守ってくれているであろう彼女のためにも、自分が悲しんではいられない。

「そうですよね。……友里恵さんの分も笑わないと」

 小さく自分に言い聞かせるように呟くと、不思議と気分が軽くなった。すぐ傍に友里恵がいてくれているような気がして、何だかとても安心する。
 微かに表情が明るくなった蕗の前に、小瀧と和加代が歩み寄る。目線が合うように屈んだ二人は、真っ直ぐと蕗の顔を見つめた。
 こうして二人の顔を真正面からしっかりと見たことなどあっただろうか。
 和加代と目が合うと、彼女は背後から一輪の花を取り出した。その花は蕗の名の由来となった少し萎れた蕗である。

「お誕生日おめでとう、蕗ちゃん。私とお友達になってくれてありがとうね」
「和加代……。こちらこそ、友達になってくれてありがとう」

 今の季節は初夏とは言えず、すっかり夏になっていた。蕗は春から初夏にかけて咲く花であり、一般的にはこの暑い時期には姿を見せない。
 けれど和加代の手に握られた蕗は、少しばかり萎れているにしてもしっかりと蒼さを残していた。この植物の蕗は、生き方を模索し続けている蕗と同じなのかもしれない。
 心の底から和加代と友達に慣れてよかったと思う。この笑顔に、優しさに何度救われたことだろう。
 今では彼女と出会わずにいたであろう自分が想像できなくなっていた。

「お誕生日おめでとうございます。初めは互いに余所余所しかったですが、今では心を開いてくれましたね」
「あの時はすみません……」
「良いんですよ。誰だってこんな男達が現れたら驚くものですから」

 蕗が柳凪の従業員として働き始めてから十年後に、故郷から軍人としてこの町にある軍事基地に移動になった仁武と再会した日のことは今でも鮮明に覚えている。
 それから店に通うようになった仁武に付いて来るようにして店にやってきたのが、小瀧達だった。 
 仁武は同じ年頃でよく知っている相手だから始めは戸惑ったが始めから上手く話せた。しかし屈強な男達である初対面の小瀧や芝を前にして、蕗は一度逃げ出したことがあった。今思えば失礼極まりない行動である。
 逃げ出したと言っても、過去のトラウマが蘇っただけで彼らを毛嫌いしたわけではない。だからこそ、今ではこうして誕生日を祝ってもらえるほどの仲にまで発展したのだ。

「正直なことを言うと、自分も初めてこの店に来たときは驚きましたからね。まさか、あの仁武が女性ばかりの店に入り浸っているとは。仁武がいつもご迷惑をおかけしています」
「おい!」

 小瀧の冗談に仁武が過剰に反応を見せる。期待通りの反応を見せた仁武に満足したらしい小瀧は、和加代を連れて一歩後ろに下がった。