そうやって何度も「もしも」を考えてしまうのは、何処かで不安があるからだ。
もしも自分が人殺しで、そのことを二人が知ったら離れていってしまうのではないかという不安。始めから全てが自分のせいだったとしたら、仁武や紬達と出会うことすらなかったのではないか。
彼らと出会わず孤独に生きている自分が、今では想像すらつかなくなっている。今ある幸せだと思える現実に甘えている自分が心配で、憎たらしい。
部屋の前から去っていく二人の背中がやけに寂しげで、見ていられなくて部屋に逃げ込む。
そのままズルズルと扉に背を引き擦りながら膝を抱えたら、止め処無く怒りが込み上げてきた。自分はなんて薄情な人間なのだろう。
二人は変わらず蕗のことを心配して部屋にまで来てくれるのに、自分はありもしないもしもを想像して、勝手に落胆している。
変わりたいと願ったあの日の記憶が朧げで、もはや誰と何処で願ったのかも思い出せない。
視線の先にあるカレンダーには、ちょうど今日の日付に赤色の丸で歪に印が付けられている。今日は自分の誕生日。紬が言ったように、皆が待っている。
「行かないと……」
立ち上がり、箪笥から普段着ている作業着と前掛けを取り出す。この服があるのは、自分が必要とされているという何よりの証拠だ。
服を着替えて前掛けを掛けると、姿見には見慣れた茶屋柳凪の従業員の少女が映っている。今の自分はまだ、必要とされている。
皆が待つあの店に、待っていると言ってくれた皆の元に行きたい。
部屋を出て廊下を進んでいると、店と住居を繋ぐ扉の向こうから鏡子達の声が聞こえてきた。この扉を開けたら、きっと皆の優しさが自分を迎えてくれるのだろう。
恐怖か不安か、それとも喜びか、扉に掛けた手が震えているのは気づかないべきだ。そう自分に言い聞かせて扉を開ける。
「あら、眠りのお姫様がようやく目覚めたみたいね」
「……おはよう、ございます」
まだ寝起きで掠れた声を聞きつけた全員が揃って蕗を見る。仁武だけではなかった。小瀧に江波方、今頃学校に行っているであろう和加代、そしてずっと顔を見せていなかった芝まで。
皆と言われたから柳凪の皆のことを指しているのだと思っていた。部屋の前に仁武もいたから、少なからず小瀧達もいるだろうとは思っていたが、まさか芝までいるとは思わなかった。
目の前の光景が現実味を帯びていない。ずっと思い描いていた理想がそこにはあって、夢でも見ているのではないかと思うほどに輝いている。
そして何より目を引いたのは、机の上に並べられた見たこともない料理の数々。豪華と言えるほどではないが、今の時代では十分に手の込んだ料理ばかりである。
「さあ、主役はここに座ってね」
鏡子と紬が店の中心に集められた机の傍に椅子を並べ、そのうちの一つに蕗は腰を下ろす。
いつもの顔ぶれが揃っているはずだった。そこにいるはずの彼女が、今は何処にも見当たらない。
辺りを見渡しても、正面に立つ鏡子の背後を覗き見ても、彼女は何処にもいなかった。
そう、彼女は、友里恵は死んだ。殺されたんだった。当然この小さな誕生日会に彼女がいるはずもなかった。
もしも自分が人殺しで、そのことを二人が知ったら離れていってしまうのではないかという不安。始めから全てが自分のせいだったとしたら、仁武や紬達と出会うことすらなかったのではないか。
彼らと出会わず孤独に生きている自分が、今では想像すらつかなくなっている。今ある幸せだと思える現実に甘えている自分が心配で、憎たらしい。
部屋の前から去っていく二人の背中がやけに寂しげで、見ていられなくて部屋に逃げ込む。
そのままズルズルと扉に背を引き擦りながら膝を抱えたら、止め処無く怒りが込み上げてきた。自分はなんて薄情な人間なのだろう。
二人は変わらず蕗のことを心配して部屋にまで来てくれるのに、自分はありもしないもしもを想像して、勝手に落胆している。
変わりたいと願ったあの日の記憶が朧げで、もはや誰と何処で願ったのかも思い出せない。
視線の先にあるカレンダーには、ちょうど今日の日付に赤色の丸で歪に印が付けられている。今日は自分の誕生日。紬が言ったように、皆が待っている。
「行かないと……」
立ち上がり、箪笥から普段着ている作業着と前掛けを取り出す。この服があるのは、自分が必要とされているという何よりの証拠だ。
服を着替えて前掛けを掛けると、姿見には見慣れた茶屋柳凪の従業員の少女が映っている。今の自分はまだ、必要とされている。
皆が待つあの店に、待っていると言ってくれた皆の元に行きたい。
部屋を出て廊下を進んでいると、店と住居を繋ぐ扉の向こうから鏡子達の声が聞こえてきた。この扉を開けたら、きっと皆の優しさが自分を迎えてくれるのだろう。
恐怖か不安か、それとも喜びか、扉に掛けた手が震えているのは気づかないべきだ。そう自分に言い聞かせて扉を開ける。
「あら、眠りのお姫様がようやく目覚めたみたいね」
「……おはよう、ございます」
まだ寝起きで掠れた声を聞きつけた全員が揃って蕗を見る。仁武だけではなかった。小瀧に江波方、今頃学校に行っているであろう和加代、そしてずっと顔を見せていなかった芝まで。
皆と言われたから柳凪の皆のことを指しているのだと思っていた。部屋の前に仁武もいたから、少なからず小瀧達もいるだろうとは思っていたが、まさか芝までいるとは思わなかった。
目の前の光景が現実味を帯びていない。ずっと思い描いていた理想がそこにはあって、夢でも見ているのではないかと思うほどに輝いている。
そして何より目を引いたのは、机の上に並べられた見たこともない料理の数々。豪華と言えるほどではないが、今の時代では十分に手の込んだ料理ばかりである。
「さあ、主役はここに座ってね」
鏡子と紬が店の中心に集められた机の傍に椅子を並べ、そのうちの一つに蕗は腰を下ろす。
いつもの顔ぶれが揃っているはずだった。そこにいるはずの彼女が、今は何処にも見当たらない。
辺りを見渡しても、正面に立つ鏡子の背後を覗き見ても、彼女は何処にもいなかった。
そう、彼女は、友里恵は死んだ。殺されたんだった。当然この小さな誕生日会に彼女がいるはずもなかった。



