随分と長い夢を見た気がする。ここ数日まともに眠れた日がなく、これほどまでに熟睡できたのはいつぶりだろうか。
忘れることができないあの日の記憶。徐々に腕の中で冷たくなっていく友里恵、面影など見せない死体と化した洸希。
人とは簡単に死ぬ生き物だった。一体これで何人目になるのだろう。自分は何人の死を見届け、引き止めることができなかったのだろう。
目の前で母親が死に、仁武の祖母の死に直面し、友里恵と洸希を失った。
けれど、皆の死には理由がある。餓死、寿命、他殺、自殺。そのどれも蕗のせいと言うには些か適当が過ぎた。
蕗は悪くない。蕗のせいで町の人々が、身近だった人が死んだ訳では無い。そう分かっているのに。
思ってしまうのだ。疫病神と呼ばれていたのはただの噂ではなく、事実であったのではないかと。
自分が疫病神だから、仁武の祖母が、友里恵が、洸希が、母親が死んだのだと。
『疫病神!』
頭の中で誰かが叫んでいる。何度も何度も、誰かが自分を罵って嘲笑って責めてくる。
波のように襲う頭痛に耐えるために布団に顔を埋める。どれだけ潜り込んでも頭の中の叫び声は消えない。
「違う、違う……。私は、違う………」
自分は疫病神ではない。自分は人間だ、望まれて生まれてきて、人並みの生活を受ける権利を持って生まれてきたはず。
母親が死んだのも、仁武の祖母が死んだのも、友里恵や洸希が死んだのも自分のせいではない。
何故、人々は死に対して理由を求めるのだろう。何故、犯人を炙り出そうと血眼になるのだろう。
「蕗ちゃん、大丈夫? もう昼前だけど、具合が悪いの?」
数回扉を叩く音が聞こえ、顔を上げると同時に紬の声が部屋の外から聞こえてくる。
窓の外に目をやると、外はすっかり日が昇っていた。普段ならすでに起床していて、軒先の掃除も済んでいる頃。にも関わらず、未だ布団の上にいるのだから紬が心配して部屋に来るのは当然だ。
重い身体を布団から引き擦り出し、寝癖など気にすることなく部屋の扉を開ける。
「え……。仁武!?」
「仁武くんだけじゃなくて、皆来ているわよ」
「な、どうして?」
寝起きで状況を飲み込めていない蕗の狼狽ぶりを楽しげに見る紬は、ちらりと仁武に視線を送った。
一瞬目を合わせた二人は、何か打ち合わせでもしていたのか随分と楽しげだ。
「どうしてって……」
紬から視線を蕗に移した仁武は、ふうわりと微笑んで言う。
「今日は蕗の誕生日だろう」
言われてようやく気がついた。何日も前からカレンダーを見て気にしていた自分の誕生日。
夢で見たあの女は自分の母親だった。顔に靄が掛かっていたのは、母親の顔を思い出せないから。最後に見た母親の姿は到底人とは言えない形をしていた。
それこそ、先日見た洸希と同じように腐って溶けて虫が蔓延った醜い姿と同じだった。
「皆、待っているから」
もし、蕗のせいで母親が死んだのだとしたら、こうして待っていると言ってくれる紬は待っていてくれるのだろうか。
いつもみたく優しく笑ってくれる仁武はいるのだろうか。
忘れることができないあの日の記憶。徐々に腕の中で冷たくなっていく友里恵、面影など見せない死体と化した洸希。
人とは簡単に死ぬ生き物だった。一体これで何人目になるのだろう。自分は何人の死を見届け、引き止めることができなかったのだろう。
目の前で母親が死に、仁武の祖母の死に直面し、友里恵と洸希を失った。
けれど、皆の死には理由がある。餓死、寿命、他殺、自殺。そのどれも蕗のせいと言うには些か適当が過ぎた。
蕗は悪くない。蕗のせいで町の人々が、身近だった人が死んだ訳では無い。そう分かっているのに。
思ってしまうのだ。疫病神と呼ばれていたのはただの噂ではなく、事実であったのではないかと。
自分が疫病神だから、仁武の祖母が、友里恵が、洸希が、母親が死んだのだと。
『疫病神!』
頭の中で誰かが叫んでいる。何度も何度も、誰かが自分を罵って嘲笑って責めてくる。
波のように襲う頭痛に耐えるために布団に顔を埋める。どれだけ潜り込んでも頭の中の叫び声は消えない。
「違う、違う……。私は、違う………」
自分は疫病神ではない。自分は人間だ、望まれて生まれてきて、人並みの生活を受ける権利を持って生まれてきたはず。
母親が死んだのも、仁武の祖母が死んだのも、友里恵や洸希が死んだのも自分のせいではない。
何故、人々は死に対して理由を求めるのだろう。何故、犯人を炙り出そうと血眼になるのだろう。
「蕗ちゃん、大丈夫? もう昼前だけど、具合が悪いの?」
数回扉を叩く音が聞こえ、顔を上げると同時に紬の声が部屋の外から聞こえてくる。
窓の外に目をやると、外はすっかり日が昇っていた。普段ならすでに起床していて、軒先の掃除も済んでいる頃。にも関わらず、未だ布団の上にいるのだから紬が心配して部屋に来るのは当然だ。
重い身体を布団から引き擦り出し、寝癖など気にすることなく部屋の扉を開ける。
「え……。仁武!?」
「仁武くんだけじゃなくて、皆来ているわよ」
「な、どうして?」
寝起きで状況を飲み込めていない蕗の狼狽ぶりを楽しげに見る紬は、ちらりと仁武に視線を送った。
一瞬目を合わせた二人は、何か打ち合わせでもしていたのか随分と楽しげだ。
「どうしてって……」
紬から視線を蕗に移した仁武は、ふうわりと微笑んで言う。
「今日は蕗の誕生日だろう」
言われてようやく気がついた。何日も前からカレンダーを見て気にしていた自分の誕生日。
夢で見たあの女は自分の母親だった。顔に靄が掛かっていたのは、母親の顔を思い出せないから。最後に見た母親の姿は到底人とは言えない形をしていた。
それこそ、先日見た洸希と同じように腐って溶けて虫が蔓延った醜い姿と同じだった。
「皆、待っているから」
もし、蕗のせいで母親が死んだのだとしたら、こうして待っていると言ってくれる紬は待っていてくれるのだろうか。
いつもみたく優しく笑ってくれる仁武はいるのだろうか。



