友里恵の葬儀は柳凪の店内でこじんまりと行われた。仁武の祖母が亡くなった時と同じほどの規模である。
人が一人減るだけで、これほどまでに店内は静かになる。一部始終を見ていた仁武と江波方は、店の一番端の席に座ってぼんやりと空虚を見つめていた。
「友里恵は死のうとしたのかしら」
静寂の中に鏡子の感情の籠もらない冷たい声が響く。生気を失っていた蕗はその声にはっと顔を上げた。
「考えてみれば当たり前よね。大好きな人が特攻隊員になって帰らぬ人になってしまったんだもの。受け入れられるはずがないのに……。私は、ずっとあの子を苦しませていたのねえ…………」
────お前といることが生きることに負担をかけていたとしても、同じことが言えるか。
蕗と仁武が共に店で顔を合わせることができていた中、そんな二人を見ていた友里恵は何を思ったのだろう。
共にいられるというのにそれ以上を求めない二人が、友里恵には屈辱的に見えていたのかもしれない。自分は愛する人を失ったというのに目の前で幸せそうに笑う二人がいる。
これが屈辱と言わずとしてなんと言うべきだろう。
毎日のように店に来る仁武達を迎え入れる蕗や紬を見て、友里恵はどれだけの屈辱を味わっただろう。
「思い返してみれば、友里恵って何だかんだ私達の輪に入ってこようとしなかった。いつも店の奥から見ているだけで……。そう、そういうことだったのね」
紬の呟きに何処か上の空だった鏡子はふっと顔を伏せた。小刻みに震える肩と鼻を啜る音。
涙を流す場面を見せてもらうことすらままならない自分に対する信頼感の無さに、蕗は劣等感に押し潰されそうだった。
とうとう耐えかねて紬は泣き出す。そんな彼女の肩を江波方が抱き寄せ、紬もまた抵抗することなく声を上げて泣いた。
「なあ、蕗」
紬と鏡子の泣き声だけが響く店内で、仁武の感情の籠もらない暗い声が蕗の耳に届いた。
顔を上げると席を立った仁武が店を出ようと移動し始める。何が何だか分からず身を乗り出して見つめる蕗に、仁武は店の扉を開けて付いて来るように一つ頷いた。
店にいる誰にも止められることなく蕗と仁武は店を出る。外は未だ開ける気配が見えない夜に染まっている。
「何処に行くの?」
「あいつの家。何か、嫌な予感がするんだ」
先が見えない闇に包まれた道を真っ直ぐと見つめたまま、蕗の問に答える仁武の目には光がない。
仁武が抱いている嫌な予感。偶然なのか何か、蕗もまた胸の奥で渦巻く言葉にならない嫌な予感を抱いていた。
少しづつ友里恵が殺された現場に近づいていく。自らその場所に近づいていると分かっていても、仁武の歩みは止まらない。
今でも友里恵が死んだと信じられないままでいる。また店に帰れば鏡子達と同じように出迎えてくれるのではないかと、今も何処かで信じている自分がいる。
洸希が人殺しなどせず、もう一度、一から関係を築き上げられたかもしれない。
今更どうしようもない後悔と、自身を落ち着けるための期待が思考の全てを埋め尽くしていく。
「ここだ」
家族同然だった友里恵を殺された場所、友里恵を殺した洸希のは随分と小さく古ぼけていた。
人が一人減るだけで、これほどまでに店内は静かになる。一部始終を見ていた仁武と江波方は、店の一番端の席に座ってぼんやりと空虚を見つめていた。
「友里恵は死のうとしたのかしら」
静寂の中に鏡子の感情の籠もらない冷たい声が響く。生気を失っていた蕗はその声にはっと顔を上げた。
「考えてみれば当たり前よね。大好きな人が特攻隊員になって帰らぬ人になってしまったんだもの。受け入れられるはずがないのに……。私は、ずっとあの子を苦しませていたのねえ…………」
────お前といることが生きることに負担をかけていたとしても、同じことが言えるか。
蕗と仁武が共に店で顔を合わせることができていた中、そんな二人を見ていた友里恵は何を思ったのだろう。
共にいられるというのにそれ以上を求めない二人が、友里恵には屈辱的に見えていたのかもしれない。自分は愛する人を失ったというのに目の前で幸せそうに笑う二人がいる。
これが屈辱と言わずとしてなんと言うべきだろう。
毎日のように店に来る仁武達を迎え入れる蕗や紬を見て、友里恵はどれだけの屈辱を味わっただろう。
「思い返してみれば、友里恵って何だかんだ私達の輪に入ってこようとしなかった。いつも店の奥から見ているだけで……。そう、そういうことだったのね」
紬の呟きに何処か上の空だった鏡子はふっと顔を伏せた。小刻みに震える肩と鼻を啜る音。
涙を流す場面を見せてもらうことすらままならない自分に対する信頼感の無さに、蕗は劣等感に押し潰されそうだった。
とうとう耐えかねて紬は泣き出す。そんな彼女の肩を江波方が抱き寄せ、紬もまた抵抗することなく声を上げて泣いた。
「なあ、蕗」
紬と鏡子の泣き声だけが響く店内で、仁武の感情の籠もらない暗い声が蕗の耳に届いた。
顔を上げると席を立った仁武が店を出ようと移動し始める。何が何だか分からず身を乗り出して見つめる蕗に、仁武は店の扉を開けて付いて来るように一つ頷いた。
店にいる誰にも止められることなく蕗と仁武は店を出る。外は未だ開ける気配が見えない夜に染まっている。
「何処に行くの?」
「あいつの家。何か、嫌な予感がするんだ」
先が見えない闇に包まれた道を真っ直ぐと見つめたまま、蕗の問に答える仁武の目には光がない。
仁武が抱いている嫌な予感。偶然なのか何か、蕗もまた胸の奥で渦巻く言葉にならない嫌な予感を抱いていた。
少しづつ友里恵が殺された現場に近づいていく。自らその場所に近づいていると分かっていても、仁武の歩みは止まらない。
今でも友里恵が死んだと信じられないままでいる。また店に帰れば鏡子達と同じように出迎えてくれるのではないかと、今も何処かで信じている自分がいる。
洸希が人殺しなどせず、もう一度、一から関係を築き上げられたかもしれない。
今更どうしようもない後悔と、自身を落ち着けるための期待が思考の全てを埋め尽くしていく。
「ここだ」
家族同然だった友里恵を殺された場所、友里恵を殺した洸希のは随分と小さく古ぼけていた。



