***
守護鬼・朱縁の屋敷へはいつものように鬼花専用の馬車で向かう。
異性との距離が近いだけで気分が悪くなる鬼花は、他の移動手段ではまともに外へ出られないのだ。
徒歩や人力車は勿論、最近増えてきた自動車などは運転手が同じ車内にいるのだからもってのほか。
通常の馬車も御者が近くにいるが、この鬼花専用の馬車は特殊らしく中に異性がいなければ距離が近くとも大丈夫らしい。
いつもより長めの距離を馬車に揺られ着いた朱縁の屋敷は、立派な門構えの邸宅だった。
帝が遷都した頃からある屋敷だと聞いているが、少なくとも何度か建て替えられたのだろう。和風建築ではあるが、鎧戸など所々洋風を思わせる様式があった。
出迎えてくれたのは黒い髪を耳隠しにした糸目の女中だ。
(女中……女中よね? あまり見ない服装だけれど)
その女中はカフェーなどで見かける女給が身につけているようなエプロンを着けていた。
ただ、着物ではなく黒い裾の長いワンピース姿だ。
(こ、これって……洋館で働く女中であるメイドの制服ではないかしら?)
話に聞く程度の知識しかないが、聞いたままの格好をしている。
古来から都を守っていた鬼の邸宅だと言うからさぞ古めかしい場所だろうと思っていたが、真新しいものがあることにとても驚いた。
華やかなものに憧れのある琴子にとって、心惹かれてしまう装いだった。
とはいえ今日は【離縁の儀】のために訪れたのだ。感情のまま行動するわけにはいかない。
躍るような心持ちを何とか抑え、その女中――メイドの案内するままに屋敷に足を踏み入れる。
少し遅れてやってくる兄の藤也は別室にて待機する予定だ。
【離縁の儀】などと大層なことを言っても結局のところはいつも身につけていた数珠を返すだけ。それほど待たせることにはならないだろう。
守護鬼・朱縁の屋敷へはいつものように鬼花専用の馬車で向かう。
異性との距離が近いだけで気分が悪くなる鬼花は、他の移動手段ではまともに外へ出られないのだ。
徒歩や人力車は勿論、最近増えてきた自動車などは運転手が同じ車内にいるのだからもってのほか。
通常の馬車も御者が近くにいるが、この鬼花専用の馬車は特殊らしく中に異性がいなければ距離が近くとも大丈夫らしい。
いつもより長めの距離を馬車に揺られ着いた朱縁の屋敷は、立派な門構えの邸宅だった。
帝が遷都した頃からある屋敷だと聞いているが、少なくとも何度か建て替えられたのだろう。和風建築ではあるが、鎧戸など所々洋風を思わせる様式があった。
出迎えてくれたのは黒い髪を耳隠しにした糸目の女中だ。
(女中……女中よね? あまり見ない服装だけれど)
その女中はカフェーなどで見かける女給が身につけているようなエプロンを着けていた。
ただ、着物ではなく黒い裾の長いワンピース姿だ。
(こ、これって……洋館で働く女中であるメイドの制服ではないかしら?)
話に聞く程度の知識しかないが、聞いたままの格好をしている。
古来から都を守っていた鬼の邸宅だと言うからさぞ古めかしい場所だろうと思っていたが、真新しいものがあることにとても驚いた。
華やかなものに憧れのある琴子にとって、心惹かれてしまう装いだった。
とはいえ今日は【離縁の儀】のために訪れたのだ。感情のまま行動するわけにはいかない。
躍るような心持ちを何とか抑え、その女中――メイドの案内するままに屋敷に足を踏み入れる。
少し遅れてやってくる兄の藤也は別室にて待機する予定だ。
【離縁の儀】などと大層なことを言っても結局のところはいつも身につけていた数珠を返すだけ。それほど待たせることにはならないだろう。



