帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める

(あ、それで桔梗の簪を持ってきたときにあんなことを……)

 思い返し、今更ながら母の思いを知った琴子に藤也は続けて話す。

「だがな、いくら女性に嫌悪を抱いていると言っても実の娘へのあり得ない暴言。その詳細を聞いて堪忍袋の緒が切れたのだそうだ」

 子を産むことだけがお前の価値だなどと、実の娘によく言えたものだな、と鬼の形相で詰め寄っていたらしい。
 怒ったことなどない母に完膚なきまでに押し負け、父は大人しくなったのだとか。

「母様があのように怒るなど……女性は怖いな」

 遠い目をする藤也に、兄も女性に対して変な不信感を持たねばいいがと琴子は少々心配になったのだった。

***

 藤也が帰ると、朱縁は琴子を部屋まで送ってくれた。
 そのまま共に過ごしても良かったのだが、午後には桐矢の現当主が詫びに来るらしくその場に琴子はいて欲しくないのだそうだ。
 琴子自身も桐矢の現当主とは面識もないため、特段会う必要も無いと判断しいう通りにする。

「では、また夕餉のときに」

 そう告げ去ろうとする朱縁を琴子は「お待ちください」と呼び止めた。
 部屋の文机に付けられた引き出しから朱縁に渡すつもりだったものを取り出し、すぐに戻る。

「あの、よろしければこちらを……。その、刺繍は得意というほどではないので少々不格好かもしれませんが」

 そうして差し出したのは手慰みにと刺していたハンケチーフだ。
 どんな理由であれ屋敷に世話になっているのだからと、初めから朱縁に贈るつもりで刺していた。
 図柄は、(まる)五角菊花紋(ごかくきっかもん)という朱縁の家紋だ。
 横から見た形の菊花とそれを守るように囲む丸と五角形。
 それを朱縁の色でもある赤と銀の糸で刺してみた。